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☆快適か安全かという究極の選択

生成AIは今後の世界を変えるとされている。便利で効率的で快適な世界が期待される一方で、安全な生活が大きく損なわれる恐れも出てきている。欲望のままに、何もかもを得ることは出来ない。何かを捨てる、あるいは規制することができなければ、人類の破滅を早めることになるのではないか。

ウォールストリート・ジャーナルは、AI時代には「社会秩序が崩壊する可能性」があるとして、NTTと読売新聞が声明を発表したと取り上げた。

「日本のトップ企業2社が指摘。日本企業の声明文では、生産性向上における生成人工知能の潜在的な利点を指摘しながらも、技術については概して懐疑的な見方を示した。具体例は提供しなかったが、AIツールはモラルや正確さを考慮せずに時々ユーザーの注意を引くように設計されることがあるため、すでに人間の尊厳を傷つけ始めていると述べた。

AIが抑制されない限り、『最悪の場合、民主主義と社会秩序が崩壊し、戦争に発展する可能性がある』と、声明文は述べた。」
参照:‘Social Order Could Collapse’ in AI Era, Two Top Japan Companies Say 

ウォールストリート・ジャーナルはまた、「金融部門を狙うディープフェイク」、
参照:Deepfakes Are Coming for the Financial Sector

「中国がAIパワーで米国の有権者と台湾を狙っている」とし、
参照:China Is Targeting U.S. Voters and Taiwan With AI-Powered Disinformation

CNBCは、「国家によるサイバー攻撃、AIディープフェイク、英国選挙のサイバー脅威」と取り上げ、
State-backed cyberattacks, AI deepfakes, and more: Experts reveal UK election cyber threats 

ニューヨークタイムズは、「10代の少女らが学校で蔓延するディープフェイク・ヌードに立ち向かう」とした。
参照:Teen Girls Confront an Epidemic of Deepfake Nudes in Schools 


AIがもたらす危機は「社会秩序が崩壊する可能性」だけではない。AIがより確実にもたらすものは「エネルギー危機」だ。ChatGPTで1回問答するときの消費電力量は一般的なグーグル検索の10倍にも相当すると言われているからだ。一方で、生成AIへの投資計画額は2024年の400億ドル程度から、今後増え続けて27年には1500億ドルを超えると見込まれている。

そのため、生成AIへの投資に伴う2027年におけるデータセンターの電力需要は、22年時点の2倍近くになると見込まれている。そこで、この3月に米テキサス州ヒューストンで開かれた年次のCERAWeek(エネルギー業界のリーダーが一堂に会し、世界のエネルギー未来について議論する世界的な会議)には、アマゾンやマイクロソフトの幹部20人以上がパネルディスカッションに登壇した。

そこでは、AIの進化に必要なデータセンターは、送電網に負担をかけ、よりクリーンなエネルギー源への移行を妨げる可能性があるほど多くの電力を必要とすることに、ほとんどの人が同意した。

また、英半導体設計大手アームのレネ・ハースCEOは、AIは「情報を収集すればするほど賢くなるが、賢くなるために情報を収集するほど、より多くの電力が必要になる」と語り、エネルギー効率が改善しなければ「2029年末までにAIデータセンターは全米の電力需要の20~25%を占める可能性がある。現在はおそらく4%かそれ以下だ」とし、「正直なところ、とても持続可能とは言えない」と述べた。

日本の東電管内でもデータセンターの電力需要は、今後10年間で10倍にもなると見込まれている。


さらには、米国ではビットコインといった暗号資産(仮想通貨)の電力消費が急増している。先日、バイデン政権は国内電力消費の最大2.3%をビットコインのマイニングが占めていると推計した。

仮想通貨の取引は、相当数の人がコンピューターでその取引を認証することで成立する。その報酬として一定数の仮想通貨を受け取ることができるので、その作業を「マイニング(採掘)」と呼ぶ。

大掛かりなマイニング施設では膨大な取引情報を処理するため、コンピューターの冷却などに大量の電力を消費している。米国には約140の仮想通貨のマイニング施設があるとされるが、このうち規模が判明した約100施設だけで、原子力発電所10基分にあたる最大計1000万キロワットの電力需要が発生しているという。

米国でのマイニングが増えている背景には、中国政府が2021年から同国内の関連企業を取り締まっていることがある。ビットコインだけでみると、米国内でのマイニングは2020年1月に世界全体の約3%の占有率にとどまっていたが、22年1月には約38%まで拡大したとされる。こうした膨大な電力需要は温暖化対策を頓挫させるだけでなく、電力供給を脆弱にしている。

米国の大掛かりなマイニング施設は、電気代の安いテキサス州やジョージア州、ニューヨーク州北部などに集中しているが、テキサス州では2021年2月に最大で450万軒以上の家や企業が影響を受ける大規模停電が数日間続いた。停電の影響で水不足や食料不足も発生、交通機関や医療機関にも影響が出た。

また、ジョージア州でも2022年12月、23年12月、24年1月と数万軒が数日間の停電に見舞われた。ニューヨーク州北部でも2022年7月に20万件を超える停電が発生した。停電の原因はいずれも積雪や竜巻、強風などの自然災害による送電線の損傷だが、電力需要の増加が事態を悪化させた。

DGCONOMISTによれば、1ビットコイン取引のコストは、二酸化炭素消費にしてビザカードのクレジット決済149万6051回分、ユーチューブ視聴にして11万2501時間に相当するとしている。電力消費では米平均世帯の41.48日分の消費だ。水の消費は裏庭のプール1杯分だと言う。これが事実だとすれば、ビットコインに関わらないだけでも温暖化対策となるのだ。

膨大な電力消費を通じて、世界を破滅させつつあるとも言える仮想通貨をどうして米国などは認めたのか? 1つのヒントが仮想通貨のロビー活動費が急増していることにある。2020年が150万ドルだったものが、22年には詐欺で告発されたFTXの影響で2700万ドルに急増した。そして、そのFTXが破綻したのに23年は10-12月だけで8000万ドルの資金が仮想通貨のロビー活動費に費やされたのだ。そして、24年1月にはビットコインのETFが誕生した。


米国の電力関連の二酸化炭素の排出量は2007年をピークに、20年まで急減、1970年代後半の水準にまで低下していた。原因はサブプライムショック、リーマンショックに続く景気後退もあるが、二酸化炭素削減に最も大きく貢献してきたのは再生可能エネルギーの増加だ。

それがコロナ禍からの回復、仮想通貨マイニング施設の急増、生成AIへの投資急増を背景に急増し始めた。そして、それは2024年1月のビットコインETFの登場、AIブームの加熱などで、今後さらに急増する見込みなのだ。

電気需要の急増に供給が追いつかず、先日バイデン政権は休業中だったミシガン州の原発の再稼働に向けて15億ドルの融資を決定した。休業中原発の再稼働は米国では初めてだとのことだ。日本でも福島原発事故以来停止していた原発の再稼働が2015年から始まっている。

一方で、水力発電に注力してきたカナダは、温暖化による干ばつの影響で水不足となり、稼働率が大幅に低下している。中米諸国でも干ばつが深刻化し、メキシコシティでは周辺の水がめが底をつく「Dia Cero(ディア・セロ)=ゼロデイ」の到来までささやかれる。メキシコは3月末時点で国土の7割が干ばつ状態だったという。

水不足はパナマ運河の水位をも下げ、テロ攻撃で不安定化しているスエズ運河と共に、世界の物流を妨げている。両運河の機能低下による南米大陸、アフリカ大陸を大周りする海運ルートはコストだけでなく、エネルギーの消費を大幅に押し上げている。

パリ協定にも関わらず、2023年の世界の二酸化炭素の排出量は過去最大だった。ここにAI投資、ビットコイン、物流の非効率化などにより、新たに発生する膨大な電力需要で、排出量が加速する見込みとなっている。それが温暖化を産み、またその温暖化が稼働率の低下や非効率化などで、新たなエネルギー需要を作っている。


欧州裁判所は、温暖化対策は人権だと判定した。実際に世界中で多くの人々が異常気象による熱中症や自然災害で命の危機に晒されている。損害保険の支払いも自然災害が圧倒的多い。そのことで、保険料が急騰している地域も多い。

快適か安全か? 究極の選択とはしたが、安全でない快適などは持続不可能だ。人類には他の選択肢などないと言える。人類はそろそろ自然に対する刹那的、場当たり的な態度を改めてもいい頃ではないか?

 

 


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