【マーケット】グロース市場250指数はどうなってんの?② | しがないディーラー

『グロース市場250指数(旧マザーズ指数)がひどすぎる件』の続きです。

自分なりにその要因について整理していく中で考えていることは

①構造的な問題
 これは取引所の方々もご認識されており、その改革に向けて諸々取り組まれているとは思います。
 やはり規模が小さすぎることと、生まれた時は小さくても、それに見合う成長力を実現し、本当の意味でのグロースを実現できている企業が非常に限られていること。
 最近のロックアップのかけ方など見ていても、上場ゴールで終わりかねないような姿勢を感じる企業もまぁまぁあること。様々な課題があるとは思いますが、これは中長期的に改革に取り組み、企業側の意識を変えていってもらう必要もあることです。昨年のPBR1倍割れ企業に対する改善要請など、ここのところ東証主導による市場改革や企業の姿勢を変えていくうえでのリーダーシップには期待したいところです。
 これは今日明日変えられる話ではありませんが、市場参加者が「グロース市場の変革」に期待できる状況になれば株価としてはそれなりに反応していくでしょう。まずは検討中の改革案と、企業側の姿勢や取り組み変化、それに対する市場の評価というところを待ちたいと思います。

東証グロース改革「企業は投資家と対話を」 識者に聞く


②昨年からの上昇局面における物色動向と市場構成の格差
 昨年からの上昇局面でもっとも効いたファクターは「バリュー」です。これは先にも触れた2023年3月31日に東証が発表した

「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表について

2023年4月以降のTOPIXベースのファクターリターン推移
ファクターリターン

ここで取り上げたものの中では

①バリュー
②配当
③モメンタム
④自社株買い
⑤ESG
⑥サイズ(時価総額)
⑦EPS修正
⑧クオリティ
⑨流動性
⑩グロース

という順番で、⑨以降が昨年4月来マイナス寄与、特にグロースはかなりのマイナスという状況です。

東証の改善要請以降(当時はウォーレンバフェット来日も話題でした)、その本命である「バリュー」、そしてその改善のための施策として「配当」や「自社株買い」による株主還元策などが拡大したこともあり、それらの影響が大幅に強まっています。2024年に入ってから急速に効いてきたのが「モメンタム」。このモメンタムを得意とする人にとっては、1~3月のリターンは結構大きなものになったのではないでしょうか。

で、グロース市場250指数はエクスポージャーとして分析すると、当然「グロース」のウェイトが圧倒的に高い。実際にTOPIXと比較して、プラス寄与にあるファクターはグロースぐらいしかありません。まだまだ成長途上にある新興企業は自社株買いや配当で株主還元するよりも、将来の成長に向けた投資にお金を回すべき存在でもあります。実際にそれが成長に繋げられているかという構造的な問題は別にありますが…。

日経平均株価がバブル高値を更新し、史上最高値を記録する上昇を示す中で効いていたファクターと、マイナス寄与にすらなっている「グロース」というファクター。グロース市場の実態を考えれば、そりゃそうなるわな…というところもあるわけです。

2020年あたりまでは数年に渡って「バリューの死」とすら揶揄されるようなバリュー株の低迷、グロース物色全盛の時代が続いたわけですし、金融緩和政策→金利引き上げと金利のサイクルも大きく変わった現在、「ターンが変わった(ゲームチェンジ)」ということなのでしょう。理屈的にはそうなってもおかしくはないですし(一般的に金利低下→グロース、金利上昇→バリューと見られがちです)、まさにその通りの動きになっていたわけです。だいぶ前にこのブログでもゲームチェンジしたと思考を切り替える必要があると書いたと思います。


③昨年からの上昇をけん引してきた海外投資家の特性
 そしてフローの面からも整理しておく必要があるでしょう。昨年からの日本株上昇をけん引してきた投資主体は誰か?という視点です。前述のファクターの偏りの要因の大きな背景です。
 誰に聞いても「海外投資家の買い」が真っ先に出てくると思います。もちろん自社株買いも効いています。過去最高の金額に達していますし、これはまだまだ増えるでしょう。実際のそのファクターもかなり効き続けている状況ですから軽視はできません。特に年度末前後を除けば、ほぼ毎週買い続けてくるのが事業法人であり、その累計金額は海外投資家に匹敵する水準にまで拡大しています。
 でもこの状況を理解するには、株価上昇のけん引役であった海外投資家の目線を理解することが大事なんです。もちろん海外投資家といっても様々ですし、全てがそうという訳ではありませんが、全体的な傾向として言えることがいくつかあります。

自分なりにざっくり挙げてみると

 (1)日本株に精通していない海外投資家からの資金流入
 (2)資金規模の大きい海外投資家は投資する株(ファンド)の最低時価総額(AUM)などにラインを設けている場合が少なくない
 (3)派生商品での売買では、CTAやマクロ系ファンドという存在が非常に大きな影響を与えている

といったところでしょうか。


 (1)日本株に精通していない海外投資家からの資金流入
 これは昨年4月の上昇局面以降、よく耳にする話です。「失われた34年間」の間、海外投資家は日本から中国や東南アジアへと視野を広げていき、日本株は完全に置き去りになっていました。実際にシンガポールで生活し、仕事をしていると日本のプレゼンスの低下は痛感させられます。

下のチャートは各国の主要株価指数を1980年を100としてプロットしたものです。その時期にはなかったものもあるので、それは出てきたタイミングを100としているので必ずしも公平なチャートではありませんが、日経平均株価やTOPIXはすでに存在していたので、バブル前の水準からの比較という意味では不公平ではないものと思います。

世界株

分かってはいても、失われた34年の重さを痛感するほど、海外の株価指数との格差はあまりにも大きいものでした。
それほどまでに日本市場への海外投資家の関心は薄れ、日本市場に期待する人がいなくなり、中国やインドなど成長性の高い国や地域にお金が流れていった時代だったと言えます。

これだけ長い期間、蚊帳の外に置かれていたのですから、もちろん日本株に精通した外国人投資家は世代が変割るとともに減っていったはずです。
いざ「日本株買わなきゃ」ってなっても、「何買っていいのか分からんっ」っていう状態だったわけです。
実際にブローカーのストラテジストやアナリストの方と話していても、海外投資家から「何買えばいいんだ?」と聞かれることが多いんですという話を何度かお聞きしました。
先日、自分も中東系の投資家とミーティングする機会がありましたが、彼らも日本にほとんど注意を払ってこなかったため、今日本株や日本の運用会社について調査・勉強しているところだと話していました。

彼らが調べやすい英語での資料やデータが揃っている日本企業となると、自ずとある程度の規模の企業になってきます。
さらに資金規模の大きい海外投資家の多くが、時価総額(ファンドならAUM)による線を引いています。例えば100億円以上の時価総額(AUM)がない銘柄(ファンド)は投資対象外になってしまう、などでしょうか。

実際にラッセル2000とグロース市場250指数の採用銘柄を時価総額100万USDで区切ってみると、それを超えているのはラッセル2000で96.03%、グロース市場250指数ではわずか38.21%という格差があります。
その辺りも昨年9月以降、ラッセル2000はある程度出遅れキャッチアップしたけれど、グロース市場250指数がついていけていない一つの要因かもしれません。

これらの前提条件を考えれば、どうしたって彼らの資金が向かう先は小型株ではなく、大型株が中心にならざるをえない。

また派生中心で売買してくるCTAやマクロ系ファンドも好調なパフォーマンスを背景に資金が集まり、その影響力を強めています。
ただ彼らが売買するのは流動性が潤沢にある派生商品(先物)が中心であるため、インデックスは買われても、それに採用されていない銘柄や対象外の市場は蚊帳の外状態なわけです。



誰が買っているのか?

この一年の上昇局面においては、ファンダメンタルズよりも、そういったフロー、需給の側面をちゃんと見ていかないとなかなか流れに合わせることが難しい相場だったと思います。

過去、バリューの死と揶揄されるようなマーケットが何年も続きました。
個人投資家の多くが、小型の成長株を発見することに心血を注ぎ、それで大成功を収めてきた人も沢山いらっしゃいます。
ただ以前、このブログで「ゲームチェンジ」という言葉を使った理由はここにあります。
もちろんそういった企業は将来成長を実現し、いずれは評価される時が来るでしょう。

ただ絶対リターン追求の世界においては、その時流に合わせることも必要になってきます。
過去の成功体験に縛られることなく、市場の変化に合わせて自分も変化していく必要があるマーケットなのだと自分は感じたからその言葉を使いました。

今後、考えるべきは「どうして外国人投資家が日本株へとシフトしているのか」という視点、西欧主要国の株価が全体的に上昇している要因、それぞれを整理して考えておく必要があるでしょう。

前者の一つの大きな要因としては、失われた34年の間に超大国へと変貌と成長を遂げた中国の低迷があります。
米中対立の激化、ブロック経済化の流れの中で、中国の成長は停滞し、そして不動産を中心として膨れ上がったものが破裂しつつあります。これが日本のバブル崩壊と同列で語っていいものなのかは別の論点が必要だと思いますが、少なくとも中国の現状とこれからに懸念を持った海外投資家(中国マネー含む)が大挙して資金を移した先がどこだったか?

ちょうどそのタイミングで東証の改善要請があったりして、「日本が変わる」という期待感が高まったのもよかったのでしょう。今後の成長期待の高いインドとともに、日本は蚊帳の外から一気に注目される存在(無視できない存在)へと戻ってきた印象を持っています。昨年の4月~6月の上昇局面では、海外投資家が日本の変化を期待しているのに、当の日本人が最も懐疑的、という印象を持っていました。

だいぶ長くなったので、いったんこの辺で終わりにしておきますが、このブログでも何度も取り上げてきているように「過去の成功体験」に囚われてしまうと、時代の変化や市場の変化に合わせることができなくなり、いずれ淘汰されてしまう。そんな運用者を何人も見てきました。

自分の想定と市場が違う動きを示した時、「おかしいだろ」で終わらせず、「どうしてそうなっているのか」を腑に落ちるまで考えつくして、納得できれば自分を修正するしかありません。
その柔軟さや、市場への畏怖、謙虚さを忘れた時、退場させられるのは自分ですから。

上記の分析や評価はあくまでも個人の見解です。
予めご了承ください。


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