4月11日放送のフォローアップ(3)
林 知之

トレードの「勝率」について考える


どんな優秀な方法でも、取れる時期と取れない時期が生まれます。そこで、システム(数式)を使いながらも臨機応変に裁量を入れようということになるのですが、この際に誤りが起こりやすいものです。
マーケット・スクランブル4月11日の放送では、生身の人間ならではのミスを認識し、より合理的にトレードするための工夫について考えました。
そのフォローアップ(3)です。

映像は、「過去の放送」でご覧ください。
(第82回 システムと裁量の融合~投資家は“売買マシン”になれるのか?


勝率の落とし穴

特定の予測法、あるいはトレードシステムを目の前にすると、多くの人はまず「勝率」を気にします。しかし、こうして注目される分だけ、実は盲点が生まれやすい部分なのです。

トレードする期間、つまりポジションを持っている日数が一定の範囲ならば、「勝率」として割り出した数字を単純に見ることで、ある程度の評価が可能だと考えられます。

しかし、幅広い手法を考える場合、勝率という数字の捉え方にも相当な幅が生じます。そこで、思い切って別のアプローチをしてみます。

相場の予測は、波動の変化を捉えようとするものです。
実際、緩やかな上昇を想像する場合もあれば、「全く動かないかもしれないが、急騰もあり得る」といった予測をする場合もあるでしょう。ここには、「値幅」という要素が入るわけです。

300円で買った、301円で売った、これは「勝ち」である、というのが勝率の計算による答えでしょうが、そういった捉え方を否定しようという発想です。

もうひとつ提唱したい要素は、「期間」です。
500円で買った銘柄が600円になった場合は2割の利食いですが、期間が1カ月だったら素晴らしく、10年も経過していたら「たいしたことはない」と評価されます。ポジションを持つ期間が短期間で、必然的に損益の値幅も一定範囲内ならば関係ないことですが、幅広い手法、あるいは、手法という確固たるものをもたない人まで対象にしたら、こういった考え方からスタートするのが現実です。

しかし「トレードシステム」とくくったときは一定の範囲に限定されるので「何も落とし穴がない」という前提が生まれやすい。その部分にこそ、誤った思い込みが生まれる可能性があると思うのです。

真実の勝率は33.3%?

上がると予測して株を買ったと仮定します。
この場合の予測には、前項で述べたように、「値幅」と「期間」があるはずです。「半年後に最低2割は上昇しているだろう」といった波動の予測です。

実際に半年後を迎えたとき、予測通りに2割以上の上昇があれば「当たり」です。下げていた場合は、もちろん「外れ」ですが、買い値を1円しか上回っていなかった、それなりに上がったが1割の上昇にとどまった、といった場合も、“値幅と期間の2つを考えたものこそが運用の結果”だとすれば「外れ」に分類しなければなりません。

こう考えていくと、当たる確率は相当低くなってしまいます。
でも、半年後に5割上昇している可能性もありますし、期待した2割を1カ月で実現することだってあります。

いっそ簡潔に整理して、上がった(当たり)、動かなかった(外れ)、下げた(外れ)としてみます。この場合、予測が当たる確率は3分の1、つまり「33.3%」です。

話を難しくしたあとで突然、安易な数式にしてしまいましたが、多くの実践者が口にする「実際にちゃんと当たるのは3~4割が限界」という言葉と、ほぼ一致しますし、私は、このあたりが本当の現実だと考えています。

最も心地よいのは勝率50%

さて、今度は的を絞り、システムトレードの勝率を考えます。

同じジャンルにある異なるシステムを比較する場合、あるいは同じシステムにおいて異なるパラメータで結果を検証する場合、トレード期間、取る値幅、ヤラレる値幅に大きな差がないと考えられます。

ここではじめて、「勝率」という数字を単純に見比べることが有効になります。100円幅取っても「1勝」、たった1円幅でも「1勝」と数えられるわけです。

この前提において、多くの実践家が、「勝率は50%前後が理想」と考えます。
その理由は、ムリに勝率を高めようとすると、勝ったときの値幅が小さくなると同時に、負けたときの値幅が大きくなるからです。

以前の放送で紹介した、極めて単純な例をあらためて示します。
「寄付で必ず買う、買ったら買い値の2円上で売り指し値を出す」というルールでのトレードを想像してください。イメージしやすいように、「500円の個別株」としましょう。かなりの確率で勝てる、つまり「買い値の2円上で利食いできそう」です。検証したわけではありませんが、おそらくそうなるでしょう。

しかし、負けたときの値幅が大きくなりそうです。
寄付で買ったあとで、値動きをウォッチしている状況を想像します。
「5円下がったが問題ない」「10円下がった……キモチわるいけど、ザラ場のうちに買い値の2円上はあるかも」といっている間に20円下げて損切りする羽目になる……こんな結末も、回数は少ないものの、ありそうですね。

すると、9勝して合計18円幅の利益(2円×9回)に対して、たった1回の負けで20円幅の損、10回のトレードで差し引き2円マイナス、なんて結末もありそうです。

勝率を高めようとした結果、「勝った場合の値幅が制限されてしまう」一例です。

勝率は50%前後、しかし負けの値幅は小さい、または負けたときは数量が少ない(分割の回数が少ない、本玉を入れていない)、そして勝ったときは値幅が大きく数量も増えている──こういった「損小利大」を目指すのが現実なのです。

正しいトレードでは損が先行する

前項で説明した「損小利大」が実現すれば、ストレスなく儲かるだろうと安易に想像してはいけません。

「上がりそうな銘柄を10銘柄、同時に買った」場合を考えてください。
裁量でもシステムでも、どちらでもいいのですが、現実の「損小利大」をリアルに想像してほしいのです。

損を小さく抑えるためには、ダメなポジションの損切り手仕舞いを早めに実行するよう努めます。値動きが弱々しくなった段階でチェックし、大きく下げてしまう前に切る、ということです。これに対して、“良いポジション”だと判断したものは、値幅を取るために一定期間ねばります。

すると、下の図のように、損切りが先行し、利食い手仕舞いは時間的にあとになるのが必然なのです。

損小利大システムの結果

この図は、10銘柄のうち3割にあたる3銘柄がダメだったという結果で、2銘柄は早めに値幅を取って利食い手仕舞い、半分の5銘柄は評価益のまま持続、という素晴らしい結果を示しています。
「素晴らしい結果」なのに、仕掛けたあとに損切りが連発するのです。

これが、現実です。
資金稼働率の設定にムリがあると、適正なトレードが進行しているにもかかわらず、初期に起こる損切りの連続で物理的に厳しくなります。資金管理に問題がなくても、心が折れてしまう可能性があります。

良いシステムが、いい感じで機能しているのに、「この手法はダメだ」と判断して別の方法を探し始めるなんて悲劇が起こり得るのです。

トレードは、大切なカネが絡む行為なので、切実な部分が大きく、同時にとてもデリケートです。したがって、ちょっとした勘違いが大切な判断を誤らせ、良い手法に出会ったことが正しく認識できず、手法をやみくもに探し続ける「相場難民」になってしまうのです。

「もっともっと」をやってしまう

次は、買った10銘柄の80%が上昇するという、絵に描いたような結果を考えてみます。
とはいっても、買ったとたんに8銘柄すべてが満足できるほど値上がりするなんていうのは絵空事なので、現実に近づけるために「上昇に時間差が生まれた」とします。また、上がり続ける相場もあり得ませんから、上がったあとは天井を打って下向きの波動が発生すると仮定します。

ある程度の期間が経過したところでは、8割が見事に上昇している、2割が評価損、といった状態になるでしょう。

このとき、10銘柄すべてを売る、つまり8銘柄の利益のほんの一部で2銘柄の損失を埋め、「ポジションゼロに戻して見事にひと区切り」とすれば大成功ですが、人間は欲張りで、つい「もっともっと」と考えてしまいがちです。8割当たるなんて珍しいと考えていた人でも、評価益の数字から1万円札を思い浮かべるうちに、「残りの2銘柄が動くまで持続だ。上がっている8銘柄は、さらに上伸するかもしれない」と期待します。

そうして時間がたつうちに、ダメな2銘柄が期待通りに上昇したとしても、上昇した8銘柄が徐々に下落し、結局は、待った分だけ利益が減ってしまう、経過時間が長くてエネルギーをたくさん消費する、そして、もしかしたら10銘柄全体でマイナスになるか利益がカスカスになるまでフリーズした状態になる──こんなさびしい結果が、意外と現実に近いのではないでしょうか。

計算と現実にはギャップがあります。“計算づく”で臨むとの認識が生まれやすいシステムトレードでも、それは同じです。逆に、システムトレードゆえの大きな誤解もあるでしょう。

次回のフォローアップ(4)では、システムに加える裁量のあり方について考えます。
お楽しみに!

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4月11日放送のフォローアップ(2)
林 知之

ちょっとした誤解をゼロに近づけよう


どんな優秀な方法でも、取れる時期と取れない時期が生まれます。そこで、システム(数式)を使いながらも臨機応変に裁量を入れようということになるのですが、この際に誤りが起こりやすいものです。
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(第82回 システムと裁量の融合~投資家は“売買マシン”になれるのか?


最近は「バイアス」という言葉がときどき使われます。正式には「認知バイアス」というのですが、要するに「人間が犯しやすい誤り」です。

例えば先進諸国でも、事件の目撃者の証言はかなりの確率で間違っているといわれています。「虚偽記憶」ですね。新しいものに直面しても以前の考えにとらわれたままでいる「保守性」といったものも、人間ならではのバイアスでしょう。

2003年に起きた韓国の地下鉄火災では、200人もの尊い命が失われましたが、煙が充満する社内に静かに座っている乗客たちの写真が公開されて話題となりました。経験のない事態に対してスイッチが入らず「大丈夫だ」と考えてしまう「正常性バイアス」や、迷いながら周囲と同じ行動を取ろうとする「多数派(集団)同調バイアス」といった心理作用で解説されたようです。

トレードでも、いや、トレードでこそ、実践者にたくさんのバイアスが働いているはずです。冷静に経済行為を進めているとも説明できるでしょうが、金融マーケットで日々起きていることは、異常事態の連続といえます。大きな期待を抱きながらも、それ以上の不安や恐怖が継続的なストレスとして重くのしかかります。考える時間が十分にあるようでいて、「明日の価格」という最も知りたい答えには一切近づくことなく決断の時がやってくるのです。

トレーダーの心理作用を専門的に説明する人は多いので、ここではベタな事例を挙げて解説します。

番組でも触れましたが、「様子見」という言葉がよく使われます。
この単語、実はひじょ~にキケンです!

一般的なトレーダーが「様子見」と使う場合、つまり、トレード仲間に対して、担当の証券マンに対して、あるいは自分自身に対して言うときは、決まってポジションを持っています。しかも、そのポジションに「不安」を抱えているときなのです。

不安だ……でも、まだ損切りを決断するのは早い、いや、損切りしたくない……もう少し待とう……「様子見する!」という具合です。

ポジションがゼロ、あるいは極端に少ない状況で「特別な行動は取らない」というのなら様子見で正しいのですが、ポジションを持っていて不安があるのですから、ツナギもしない、減らすこともしないという決定は「様子見」ではなく、「このままポジションを維持する」という確固たる決断です。

それなのに、逃避と先送りを正当化するために「様子見だ」とつぶやくのです。
キケンです。

この「様子見」という便利な言葉を最初に使ったのが、市況解説なのか、とりあえず顧客を黙らせようとした証券マンなのかはわかりませんが、いつの間にか多くのトレーダーが“秘密兵器”として使っているわけです。

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ほかにも、一般的なバイアスとして、「買い偏重」があります。

※買い偏重
売りと買いで「売買」なのに、「買い」の要素にばかり目が向いてしまうこと。
用語集(林知之)の解説は、こちらをクリック!(別ウインドウが開きます)

トレードは、「(売りでも買いでも)自分の意思でポジションをつくって手持ちの現金を殖やす」行為です。でも、日常の“消費行動”の図式を当てはめてしまうのか、「株は買うもの」という認識が広く認められます。

積極的に考えた結果として、「買いから入る戦略がメインだ」と決めている人もいます。
「株式の発行体である企業は、利潤を追求する団体。企業が生んだ利益が、配当や値上がりとして株主に還元される。だから株は、買いが基本なんだ」
理屈はその通りですし、多くの場面で会社の内容と関係なく上げ下げする株価変動を素直に捉えたうえで、このように結論づけているのなら問題ありません。この考え方が、その人にとって常に正解だといえます。

しかし、偏った認識から生まれた買い偏重によって説明の言葉が生まれ、それを素直に受け入れてしまった多くのトレーダーは、感覚が「買うこと」に傾きます。カラ売りを特殊なものと位置づけ、現物買いの売り手仕舞いについても考えが希薄になりがちなのです。

「自分は大丈夫」という発想も、それ自体がバイアスである可能性を秘めています。そして、ふだん目にするマーケットに関する記事は、買い偏重をもった一般トレーダーを対象に、同じく買い偏重を抱えた記者が書くので、それを素直に読んでいるだけで買い偏重が生まれる、買い偏重が強まるといったことが起こります。

買い偏重に起因する不思議な心理が、ごく身近にあります。

上げ相場でポジションを持っていない人は、「周囲においていかれる」と感じて焦ります。実際には損益がゼロ、リスク要因もないのですが、無責任なメディアが放つ「持たないリスク」などという言葉を思い出してイライラするのです。

逆に、下げ相場で買いポジションを持ち、評価損が発生しているという状況なら、意外と落ち着いていられる傾向があります。「みんなが苦しんでいるのだから……」という考えがあるからでしょうか、「マズイよな」と感じながらも平気でいられるのです。

前者はリスクなし、後者はリスクと不安あり──それなのに前者の状況のほうがイヤなのです。おかしなことですが、多くの人がもつバイアスです。

トレードという行為を考えるとき、外部からの情報に惑わされず、すべてをまっすぐに捉えるべきです。現在のポジション、評価損益、資金稼働率、余裕資金などを平易に観察し、その銘柄が保合の中にいようが、大きく上伸していようが、あるいは激しく下落していようが、「これから先、上がるか下がるかは5分と5分だ」という金融工学の原則でまっすぐに認識するべきです。

そのあとで、自らの手法による価値判断で「上がる」とか「下がる」などと評価し、大切な“次の一手”を決するのがトレードです。

次回のフォローアップ(3)では、今回と同じような“ありがちな錯覚”をテーマに、「トレードの勝率」について考えます。
お楽しみに!


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三菱自動車の不正なんて目じゃない

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最近の世の中は、やたらと他人に厳しく、何かすればすぐに〇〇〇ハラスメントと責められ、とうとう「モラルハラスメント」なる言葉まで登場してしまい、昭和の男には居場所がない……そんな嘆きも聞こえてくるのですが、三菱自動車が燃費のデータを改ざんした不正は企業の社会的責任などから大問題、ぜひともメーカーとしてのあり方を見直してほしいと思います。

突然に“社会派”を気取るつもりはありません。
燃費データの不正から、トレードシステムのパフォーマンス計算のプロセスについて、ふと考えたのです。

システムは、根幹のルール(ロジック)がそのままでも、パラメータという値を変えることで損益が変化します。パラメータとは、いわゆる“調節つまみ”で、値動きを判断する際の“効き具合”を調整する部分です。

日常生活ならば何でしょう……例えば、モラルハラスメントの判定にしましょう。
ダンナの言動がモラルハラスメントになるか否か──その基準が緩いか厳しいかというようなことです。
「オンナ子どもはすっこんでろ!」は、標準的な基準でアウトです。たぶん……。でも「女性は後ろに下がっていて」ならば標準ではOK、というか「守ってくれるのね、頼もしい~」と高評価かもしれませんが、厳しい基準を持ち出せば「そんなのは性差別だ!」とアウトの判定、みたいなことでしょう。

上記の例えは、ぜひ優しい基準で判定してもらうことにして本題に戻ります。

トレードシステムのパフォーマンスを数字で示す場合、過去の値動きで検証する以外に方法はありません。では、例えば過去1年間のパフォーマンスを検証する場合、「ちょうど、その1年でパフォーマンスが最高になるようにパラメータを調整」したくなります。でも、その設定が、これからの1年、これからの3年、5年で通用するかどうかは未知数で、往々にして通用しない、あるいは、通用するけどドローダウン(途中経過での累積損)が大きすぎて実用に耐えない、といったことになります。

こういう過度な最適化を、「カーブフィッティング」と呼びます。
要するに、現実を無視した設定ということですね。
前日に寒かったという事実から、今日も明日もセーターを着る、みたいなことでしょうか。おっ、この例えはいいですね!

今回は「三菱自動車の不正なんて目じゃない」というタイトルですが、トレードシステムの多くがこういったムチャな数値で宣伝をしているということではなく、純粋な気持ちで“未知の未来”に使おうとして、やってしまう落とし穴、“システムトレードあるある”だということが言いたいのです。

手前ミソですが、中源線シグナル配信のシステムを仕上げる際、この落とし穴に自らはまらないよう細心の注意を払いました。

単純なカーブフィッティングはもちろん、例えばパフォーマンスの高い銘柄を「ユニバース」として選定する時にも、“実用性”を重視する観点をしっかりと盛り込みました。単に過去の成績が良いものを選んでしまうと、「バブル期の上げ相場で莫大な儲け、でもその後はションボリ」なんて銘柄をリストに載せることになりますし、「大きな利益と大きな損失を年ごとに繰り返す」ような銘柄をおすすめすることも絶対に避けたいと考えたのです。

まとめます。
トレードの設定は、それが裁量でもシステムでも、自分の利益のための工夫のはずが「不正」となり、自分の不利益になってしまうことがあります。計算よりも現実に目を向けて、“確信ある自分流”を構築してください。


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ゴミのポイ捨て、歩道を暴走して歩行者に道を譲らせる自転車、降りる人を押しのけて電車の空席に突進する人……マナーが悪いとか許せないと感じることが誰しもあるでしょうが、もしも、みんなが素晴らしい行動を取るようになってしまったら自分自信の軽い行動が責められてしまう──こう考えれば、ちょっとだけスッキリ。自分の利益につながる捉え方をしたいものです。

証券会社の新入社員が電話に出て「今日はどうだい?」と聞かれても、何を話していいのかわかりません。先輩や上司からは、「とりあえず日経平均の前日比を言え」と教わります。

指数連動型のETFどころか日経平均先物も始まっていない時代から、不思議なことに、「今日は200円高です」と聞いた投資家は満足して電話を切ります。
「キミは新人だね。そうか、200円高か。ありがとう」

前日比がマイナスでも同じです。
「そうか、100円安なのか……がんばれ!」
誰が何をがんばるのでしょうか?

株価が上昇を続ければ日経平均は上がり、個々の銘柄も総じて上昇をみせます。
しかし、多くの人が決断のポイントとする数カ月単位の上げ下げ、あるいはもう少し短期の騰落を見ると、日経平均の動向とは異なることばかりです。
少なくとも日経平均は、売り買いを判断する先行指標とはなり得ません。

数学50点、英語100点という成績について「平均75点」でいいのでしょうか。
数学の50点は問題あり、英語の100点は素晴らしい、ということのはずです。
では、次のテストで「数学100点、英語50点」と変化した場合、平均点は75点で全く変わらないのですが、内容的には“事件”が起きているわけです。
平均(算術平均)の落とし穴です。

株価が下がると、各種のメディアはこぞって犯人さがしをします。
解説を聞いた投資家が「先物の売りが原因らしい」と聞いて満足しつつ、下がった買い玉に対する“次の一手”は特になし……自分の利益につながる捉え方ではありません。

「乱高下は困る」という意見に異議を唱える人がいないようですが、株価が全く動かなかったら利益の源泉たる値動きが存在しないわけですし、誰にでもわかるジリ高なんてあり得ません。ジワジワ上昇して3カ月後に2割高と“答え”がわかった瞬間、買いが集まって2割高になる──これがマーケットの構造です。

日経平均は4月18日に572円安。そして今日、ザラ場で500円超の値上がり。
マーケット全体の“振れ”が大きくなったと感じますが、嘆いても誰も同情してはくれないので、「新たな利益の出し方がある」と研究するべきです。

ちなみに18日の572円安についても、自分が売買する個別銘柄の動きを素直に観察して“次の一手”を考えるのがプレーヤーの行動です。

個別では、東証一部の値上がりが209銘柄(約11%)ありました。
今年の新高値が43銘柄、新安値が17銘柄でした。
値上がり率トップは日本鋳鉄管の35.4%(ストップ高)、第10位のカナモトが12.2%の上昇率でした。

本日、19日(火)、この原稿を書いている13:27現在、日経平均が500円高する中で東証一部の値下がり銘柄は155、昨日の値上がり率上位に入った銘柄がチラホラと見つかります。

トレードは、自らの感性をカタチにする創造性にあふれる行為です。
その観点も、取り組む方法も無限にあります。
だから、何が正解かは人それぞれですが、わずかな情報ですべてを片づけようとする表現には注意すべきです。ハッキリと否定すべきものが多いはずです。


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4月11日放送のフォローアップ(1)
林 知之

株価の動きに標準や典型はない


どんな優秀な方法でも、取れる時期と取れない時期が生まれます。そこで、システム(数式)を使いながらも臨機応変に裁量を入れようということになるのですが、この際に誤りが起こりやすいものです。
マーケット・スクランブル4月11日の放送では、生身の人間ならではのミスを認識し、より合理的にトレードするための工夫について考えました。
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繰り返し説明していることですが、個別株をトレードするときに「まずは日経平均を見て……」というアプローチは、やめてください。日経平均は、単なる“平均値”です。

すべての銘柄が常に同じ動きをするなら日経平均の推移が参考になるでしょうが、それならば、そもそも日経平均を計算することに意味はありません。個別銘柄の値動きは、それぞれに特徴があり、波動もタイミングもバラバラなのです。

例えば学校の成績で、「数学50点、英語100点」が「数学100点、英語50点」と変化した場合、平均点は75点で全く変わらないのですが、内容は大きく異なります。どちらの科目も、これだけの変化は“大事件”です。

株価についても同じことがいえます。

世間では「アベノミクス相場」という言葉が盛んに使われていますが、私は大いに違和感を覚えます。昔から「相場は相場に聞け」といわれるほど、金融マーケットの値動きは予測不能、少なくとも人知の及ぶものではないとされているのです。

どの政党が政権を担おうが、誰が首相になろうが、どんな時代背景だろうが、株価の上昇を嫌う理由などありません。しかし株価は、非情なまでに大きく上げ下げを演じるのです。安倍政権の政策ほど株価を強く意識したものはないという評価には反対しませんが、個々の政策の効果と株価の因果関係が証明されたわけではなく、明確に説明されたこともないのです。そんな状況で、メディアが便利に使う「アベノミクス相場」という表現に、自立性を求められるプレーヤーが、まんまと乗っかるべきではありません。もっと、まっすぐに個別銘柄の株価変動を観察するべきです。

アベノミクス相場が始まったとされるのは2012年の終わりごろですから、その少し手前にあたる2011年以降の株価変動を月足チャートで見てみましょう。

まずは、日経平均採用銘柄のひとつ、1801大成建設です。

スライド1

見事な上げをみせていますね。
日経平均の上昇と比較するため、2012年5月の終値と2015年8月の終値を確認します。
日経平均は8,542円が18,890円になったので121%の値上がり、2015年6月の月中高値(20,952円)で計算しても145%の値上がりです。
これに対して大成建設は、2012年5月終値が191円、2015年8月終値が822円ですから、330%の値上がりを記録したことになります。

では次に、同じく日経平均採用銘柄の4208宇部興産を見てみます。

スライド2

業績の推移に問題があったとは思えませんが、“アベノミクスで上昇”どころか、地味な安値圏の横ばいに終始しています。そして、直近の数年で最も高いのは、多くの銘柄がスピーディーな暴落を演じているさなかの2015年11月なのです。

次も、やはり日経平均採用銘柄の5706三井金属です。

スライド3
2013年以降、下値を切り上げて推移していますが、安値保合の域を出ていません。そして目先の下げで、2012年につけた安値水準にグッと近づいています。

最後に、これは日経平均採用ではありませんが、5902ホッカンの月足も見てください。

スライド4
2012年の終わりから上昇している部分は、日経平均の動きと一致していますが、その後は大きく上伸せず、安値圏からわずかに上の価格帯で保合が続いています。絶対値が安いので変化率は小さくありませんが、この銘柄の長期的な流れからすれば、単に安値圏で地味な動きをみせているにすぎません。ただ、ファンダメンタルも良好で、直近の混乱でも崩れず、2012年以降は下値を切り上げながら“しっかり”と推移していることがわかります。

実は4銘柄とも、林投資研究所で行っている低位株投資の手法(FAI投資法)で観察しているもので、実際に買いの対象として選定したのが大成建設と宇部興産です。大成建設は大当たり、宇部興産は空振りです。残りの2銘柄、三井金属とホッカンは、今後の動きを見ながら選定する候補ですが、三井金属は大きな上昇を期待するには時期尚早、ホッカンは近いうちに選定できるかもしれないと考えています。

以上の説明は余談ですが、日々このように多くの銘柄について長期波動を観察しているので、常に個別銘柄の動きが本当にバラバラだと強く認識しているのです。

ここで、目先の動きについても、数銘柄を比較してみましょう。
林投資研究所の中源線シグナル配信でユニバース(高パフォーマンスの研究対象銘柄)に選定している99銘柄から4銘柄を取り上げ、日経平均の動きと比べてみます。

チャートは、中源線のルールに従って赤と黒に色分けしてあります。
赤は「上昇」と見込んで買う時期、黒は「下落」と想定してカラ売りする時期です。
なお、判断のパラメータ(設定)は、中源線シグナル配信システム独自のものです。

チャートを見る観点は多岐にわたってしまうので、以下の2つに絞ります。
(1)昨年末の高値のタイミング
(2)直近2月初めの高値と3月高値の位置

スライド9

上は、日経平均の中源線チャートです。

(1)12月初めが高値で、そこから下げました。
(2)3月高値は、2月初めの高値に届きませんでした。

続いて、7014名村造船所です。

スライド5

(1)高値は12月上旬で、日経平均とほぼ同じです。
(2)2月から3月にかけての上げはまずまずの動きで、2月高値と3月高値の水準がほぼ同じです。

こんどは、8604野村HDです。

スライド6

(1)11月前半から、すでに下げ波動がスタートしていました。
(2)3月の戻りは弱く、2月初めの高値に遠く及びませんでした。

続いて、動きの良い銘柄を2つ見てみます。
まずは、4310ドリームインキュベータです。

スライド7

(1)日経平均とは異なる動きで上げが続いたので、12月末が高値です。振幅が大きく、日経平均よりも約1カ月遅れて下げが始まっています。
(2)3月の高値は、2月初めの高値を大きく上回りました。

最後は、7717ブイ・テクノロジーです。

スライド8

(1)日経平均と同じく、12月初めが高値です。
(2)3月の上げは大きく、2月初めの高値を2月中に抜き、3月末には昨年の高値に迫りました。

こうして目先の動きを見ると、さすがに2015年末からは上げ下げのタイミングが似ています。値動きが荒いためにダマシが出やすい状況である点も一緒です。また、3月末からの下げで、現在は売り線(黒い線=売り線)になっていることも同じです。

でも、値動きの振幅、つまり上げ下げの内容は全く異なっていることがわかります。

あらためて述べます。

「株価=日経平均」という観念を、バッサリと切り捨ててください。
トレードする銘柄そのものの価格を、ストレートに観察してください。
“人気”という要素の大きい株価変動を考えるのですから、「アベノミクス」といった材料を、明確な根拠なしに株価に結びつけないでください。

市況解説を中心にした情報発信者は、あなたにとって切実な問題であるトレードの「損益」について関心を持っているわけではなく、“情報を買ってくれるかどうか”を気にしている立場です。いわゆる悪意もなく、敵対する関係でもありませんが、少なくとも「信頼の置ける参謀」と認識するにはムリがあるでしょう。

「儲けたい」と願う生身の人間は、売買マシンにはなりきれません。
感情や認識の誤りがマイナス要因を生み出します。
優秀なトレードシステムを使用していても、100%使いこなすのが難しく、そのシステムの長所を壊してしまう“ヒューマンエラー”が起こるのです。

次回のフォローアップ(2)では、よく使われる言葉が誤った行動につながる事例、「相場あるある」をほかにも紹介します。
お楽しみに!


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努力のような“やせガマン”?

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マスターズゴルフ2016年は、松山英樹選手の優勝争いに興奮しました。
最終日にスコアを伸ばしきれず、本当に残念でした。
そのまま逃げ切って優勝かと思われたジョーダン・スピース選手は、12番パー3で2回も池ポチャして自滅……若いとはいえ世界のトップを争う人がこんなことになるほど、紙一重の世界、メンタルのコントロールが重要だということでしょう。

トレードでもメンタルが重要ですが、ゴルフに例えると、「向かい風だと思ったら追い風だった」程度の違いではなく、「高低差30センチの上りだと思ったら、なんと高低差2メートルの下りだった」くらいのことが当たり前に起こります。

スポーツのように、肉体的な技術で困難を打破することもできず、ムチャクチャともいえる変化(株価変動)への対応こそが技術ですから、「考え方」という意味でのメンタルが技術と直結しているといえるのでしょう。

ヒトの心は無限の可能性を秘めているといわれますが、わずかなことが原因で良くない方向に傾くことも多々あります。
心の傾きを「認知バイアス」などと呼びます。「そんなの、おかしいよね」というようなことが私たちの心の中で起こっています。

トレードシステムについて、「勝率8割じゃないとイヤだ」なんて非現実的だと思っていても、例えば10銘柄買った個別株の8割が期待通りに値上がりした場合、「あとの2銘柄もビシッと上がって勝率100%にしたい」なんてムチャを言いだすのが生身の人間です。つい、そう考えてしまうのです。

株価は、自分の努力では動かせません。
だから、自分自身をどうコントロールするか、そのためにどんな考え方を持っているべきかを考える──。難しいテーマですが、トレードで最も重要なことのひとつです。

今夜のマーケット・スクランブル生放送には私、林知之が出演し、そんなデリケートなテーマを取り上げてお送りします。

「システムと裁量の融合~投資家は“売買マシン”になれるのか?」

生放送は夜8時から30分間 マーケット・スクランブルサイト内で見ることができます。
(後日、オンデマンドで視聴できます)


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