一を拾って九十九を捨てる
「儲け方」を考えるのがトレードです。
しかし全戦全勝でない以上、柔道の受け身やスキーでの転び方と同様、上手な「負け方」を考えておく必要があります。
8月7日の放送では「負け方」に焦点を当て、無責任なプロたちが決して語らない「儲からない話」をしました。
しかし、イヤな部分に目を向けるだけでは、現実の効果も期待できません。
未来に向けて積極的にポジションを変化させる行動、最終的な「勝利」のためのポジション調整と考えるのが、実践家の発想です。
映像は、「過去の放送」でご覧ください。
(第114回 うねり取りと中源線建玉法 ~儲かるとき儲からないとき~)

得意技はなにか
フォローアップ(1)は、「自信をもとう!」というタイトルで、ポジティブ思考、ネガティブ思考の利用法などを説明しました。
ただ、「なるほど」と思っても、実行には苦労があるかもしれません。そこで今回は、「肯定形」に絞ったプロのポジティブ思考に焦点を当てます。
キーワードは「得意技」です。
「なんだか、できそうだ!」というポジティブな気持ちで臨んでも、損を出したときは落ち込みます。とてもバカなことをしてしまった、と感じるものです。ちゃんと考えて合理的に行動したつもりなのにカネが減ってしまう……こんな生々しい結果を突きつけられるからです。
「相場なんだから、見込み違いは当然」という“脳”での理解を、「あ~、損しちゃった」という“感情”が上回った瞬間、「うまいこと未来を見通せないだろうか」というムチャなことを求めて迷走し始めるのが人間の特性です。
迷走し始めてからブレーキをかけて方向転換するのは難しいので、最初から望ましい方向に進むべきです。そのときに効果があるのが、「得意技」という言葉です。
株式市場では日々、いろいろな値動きが発生していますが、取れる動きと取れない動きがあるはずです。この場合の「取れない」は、自分のスタイルでは利益を確保できる確率が低い、苦手な値動きパターンという意味です。
いろいろな値動きがあるため「どれでも取れるようになりたい」と考えるのが人情ですが、現実は甘くありません。苦手パターンに挑戦するよりも、得意技を決めて専念するべきです。進化のための“課題”は、その得意技の精度を高める部分だと考えるのです。

肯定形の思考
さて、「得意技に絞ろう」と提案しても、まだまだ“ほしがる”のが人間の性。
値動きイメージを使って、トレードの得意・不得意を考えてみましょう。

この図には、同じ値動きを2つ描いてあります。
往来のあと、上に抜けるというパターンです。
こんな値動きに対して、2種類の異なるタイプのトレーダーがどんな売買を展開するか、私のリアルな想像を示しました。
図の上側は、逆張りで往来を狙うトレーダーの行動です。
往来を前提にしているので、前半の動きは想定どおり、上げ下げを見事に捉えて利益を上げています。高くなったら売り、安くなったら買いと、往復の変動を取っているわけです。
しかし、最後に上方向にブレイクする場面では、「そろそろ天井か」と考えて買いポジションを手仕舞いながらドテン売りに回ったところでグッと持ち上げられ、バツ印の部分であきらめて踏みます(踏む=カラ売りを損切りする)。
ブレイクアウトによって、値動きが得意パターンから外れたので、まずは撤退です。
イメージにないことをムリに実行することなく、休むつもりで身を引くのです。
図の下側は、まったく異なるタイプ、ブレイクアウトを狙うトレーダーの行動です。
逆張り狙いのトレーダーがコツコツと往復の動きを取っている間、「上に抜ける」と考えて買ったあと見込み違いで投げ、次は「下に抜ける」と読んで売りを仕掛けたところ、これまた不発……損切りを繰り返します。
しかし、最後に上方向にブレイクする場面では、うまく上げに乗りました。逆張りトレーダーがカラ売り玉を踏んで撤退するのに対して、「よし!」と利益を伸ばすための“ねばり”を考え始めるわけです。
単純に、「逆張り」「ブレイクアウト」と2つに分けて説明しました。
実際は、もう少し入りくんだ戦略があり得ますが、少なくとも、こういった真逆の戦略を併せもつことはムリなので、取れる場面(出動したあと利を伸ばすよう努める)と取れない場面(見送る、あるいは出動したあと損切り撤退)に分かれてしまいます。
ところが、頭でっかちの人ほど、「値動きを注視しながら戦略を切り替えていこう」などと難しいことを試みます。しかも、銘柄もバンバン乗り替えて、毎週のように利益を追う行動を実現しようと考えます。
フォローアップ(1)で示した「根拠のない自信」は、人間がストレスなく努力して前進するための原動力ですが、上記のようなムチャな行動は、単なる現実無視なのです。
「自分の得意技はこれだ!」という肯定的なイメージを軸にして、それ以外のものを気持ちよく捨ててしまえばカンタンです。「もったいないけど捨てる」というネガティブなイメージではなく、「1つだけに絞って集中する。そこで勝利する」という極めてポジティブな姿勢で、「一を拾って九十九を捨てる」のです。

迷いを絶つ中源線
オトナだから器用に立ち回りたいと考えます。トレードの経験が少なくたって、大切なカネのことなので、常にいい結果を出したいと思います。
そこで、経験の多寡(たか)にかかわらず、可能な範囲で思い悩みます。
トレードに関する悩みは尽きることなく、際限なく増えていくのです。
でも、悩みながら、また、より良いやり方を模索しながらも、目の前の値動きに対しては“迷うことなく”行動しなければなりません。現時点で“確信のある”答えを出して、ポジションを動かさなければいけません。
一般に、トレード経験がない人は、損することをものすごく怖がります。
一方、一定の経験をした人も、必要以上に怖がるものかもしれません。
そこで、「百発百中はムリ。それならば、上手な負け方をして、前向きな気持ちで次のラウンドに臨むようにしよう」と考え、「悩みは山積み……でも、次の一手は迷わずに決める」という姿勢をつくりたいのです。
迷いながらつくったポジションは、見込み違いのときに対処がサイアクになります。
見込みが当たったとしても、取れる値幅の限界が低くなってしまいます。
私のトレードは、「勝率(予測の的中率)を高める努力は結果を生まない」という考え方がベースです。
中源線も、同じ考え方に基づいたトレード手法です。
もちろん、ある程度の勝率を維持することで成り立つ手法もあり、それを否定するつもりはありませんが、いずれにしても「迷いなく行動する」ことだけは必須の事柄、トレードの核となる要素だと確信します。
ところが、その部分がユルくなってしまうのが“相場あるある”で、平均的な投資家の課題、ベテラン投資家も気をつけるべき点なのです。
中源線のベースは、シンプルに3分割の売り買いを決定する機械的な判断基準です。
これこそが、迷いが生じてブレてしまう投資家にとって大きな武器になります。とにもかくにも、確固たる判断と売り買いの決断が示されるので、幼児が自転車を練習するときの補助車どころか、堂々とした態度で迷いなく行動するプロの売買をなぞることができる、と言い切っていいほどカチッとした指針を得られるのです。
では、その判断基準の基本的な考え方を、あらためて紹介しましょう。

この図は、中源線の基本ルールを惜しみなく公開した林投資研究所オリジナル書籍『入門の入門 中源線投資法』に掲載したものです。
中源線は、まず陰陽(強弱)の判断を行います。
「いまは上向き」または「いまは下向き」と、トレンドを判断します。
そして、その判断に従ったポジションを取るのですが、まずまず機敏な行動と3分割のポジション操作がセットになっています。
プロトレーダーが守っている「迷わずに行動する」姿勢が、誰にでも実行できるのが中源線なのです。

再転換が面白い!
中源線の“まずまず機敏”な陰陽転換は、前項の図に示した「逆行」に着目して判断します。
「相場はどっちに行くのかなぁ……」といった、あいまいな態度を取ることなくトレンドを判断しているので、日々の上げ下げについて「順行」「逆行」と明確な評価を行うことができます。買っている状態で前日比がプラスならば「順行」、前日比がマイナスならば「逆行」です。まずは、この部分が中源線の大きな価値です。
では、「順行」と「逆行」それぞれは、どのような行動につながるか。
中源線では、「順行」の動きは放置するのが基本です。
“利が伸びる”動きなので、放っておきます。
例えば、買った直後に急騰したからといって急いで利食いしたりしません。
そのかわり、「逆行」には注意します。
「逆行」が続くなら放ってはおけない事態、何らかの“対処”が必要になるからです。
そして、図のような「逆行と逆行の組み合わせ」でトレンド転換を判断するのですが、値幅についてカチッとした数式が定められています。
(『入門の入門 中源線投資法』で詳しく説明しています)
機敏な判断が、トレンドの急な変化に対応した事例を紹介しましょう。
少し古いのですが、2013年4月に日銀の黒田総裁が思いきった金融緩和策を発表した(通称「黒田バズーカ」)ことを機に、株が大きく買われた場面がありましたね。その時の、三菱重工の値動きをご覧ください。

5月の高値に向かって上げる際に素早く陽転(買い転換)し、高値からの急落一発目で陰転(売り転換)しています。なかなかうまく機能した例ですが、陽転で急騰に乗った部分に注目してほしいのです。下に示すのは、4月の値動きを拡大したチャートです。

実は、ずっと陽線(買い線)で推移して、買いポジションを維持していたのですが、黒田バズーカの手前で弱含むと、素早く「陰転」と判断したのです。
しかし、そのあとの切り返しで、これまた素早く「陽転」と判断しました。
これは、中源線の基本ルールに追加されている「再転換」というルールで、値動きによる判断に誤りがあったことを素直に認めて「やっぱりこっちだ」と方向転換するのです。
陰転で、いったんは買いポジションを手仕舞ってドテン売るのですが、売り仕掛けは3分割の1単位のみ、そのあとの再転換では最初から2単位買います。
このあたりが、「生身の人間が相場を“張っている”」「しかし、一切の迷いなく行動している」感じで、実に魅力的だと感じさせるのです。

経費としての売買損
今回の番組テーマは「儲かるとき儲からないとき」です。
このフォローアップ(2)のタイトルは、「一を拾って九十九を捨てる」です。
「逆張り」か「ブレイクアウト」か、狙いどころを絞るしかない現実を説明したように、細かい部分についてもやり方をコロコロと変えることはできないので、同じ銘柄でも取れる時期と取れない時期があることを受け入れるのです。
再び、実例を挙げながら解説します。

東京個別指導学院は、2016年11月下旬に陽転し、2017年3月の高値まで暴騰しました。
この上げを、中源線はうまく捉えています。とはいえ、2017円1月には、先の三菱重工と同じように、一時的に陰転している場面があります(赤い矢印)。あとから見れば「ダマシだ」「不要な売り買いがあった」となるのですが、この弱含みのあとに下落が続くケースもあるので、いったん売りに転じる、再び強張ったところでドテン買う、といった対応は、多くの投資家が注目すべきものです。
また、高値圏の往来(赤い丸で囲んだ部分)では、陰転、陽転……とダマシが続いています。こういったイヤな場面は避けたい、でも機能するときは「売り」「買い」と明確に示してほしいなんて……それはムチャな要求です。
相場である以上、こういったことが最終的な課題なのですが、「経費としての売買損」を完全に避けることは不可能です。
ちなみに、2017年7月に入ってからの下落は、うまく売りポジションをつくって乗っています。この原稿を書いている8月15日現在も、陰線(売り線)のままです(8月14日大引)。

アサヒも、直近で大きく上伸しています。
しかし、中段で2回、ダマシの陰転がありました(赤い矢印)。
こういった事態をゼロにできないか、と考えるのが人情ですし、トレードの研究を進めると、先ほども述べたように「課題」として浮かび上がります。しかし、絵に描いたような対応がカンタンに実現したら、参加者の売り買いで値段がついている株式市場が、そもそも成立しないのです。
こういった現実を受け入れつつ、実現性の高い「利益追求」をしなければなりません。
「機能しないこともある」とあきらめる、取れない動きを捨て去る──これらは、プロが大切にする前向きな姿勢、極めてポジティブな思考によって支えられる考え方なのです。
次回のフォローアップ(3)では、プロのマネをする最短距離について考えます。
お楽しみに!

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