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☆アベノミクス2.0は機能するか?
高市政権の経済対策が明らかになったようだ。3本柱として掲げているのは、物価高対策、成長投資、安全保障の3つだ。とはいえ、まだ「検討中」や「方針」、「早期に」といったものが多く、数値や制度の細部については今後固まっていく見込みだ。
株式市場は「高市トレード」と囃し立て、日経平均は5万円のわずか手前で折り返したが、日経平均先物は一時10円だけながら5万円を上回った。
高市政権は大幅な株高に繋がったアベノミクスの再現を狙っているとされるが、第2次安倍政権中に達成したような株価が数倍になるような可能性が、今後もあるのかを考えてみたい。
まずは、「検討中」や「方針」とされている経済対策の中身をまとめてみる。
1、物価高対策
「暮らし・家計を守る」観点から、物価上昇の影響を緩和し、賃上げ・所得環境の改善を図る。
現金給付ではなく、制度・税制・企業支援を通じた対策とする。
ガソリン税の暫定税率の廃止法案を今国会で成立させ、軽油引取税の暫定税率も早期に廃止を目指す。これにより燃料価格への転嫁分を軽減する。
医療・介護分野など、物価高・賃上げ負荷が大きく、経営が厳しい事業者(病院・介護施設など)への補助金支援。診療報酬・介護報酬の改定時期を待たずに、従業者処遇改善・経営改善に直結する補助措置を講じる。
賃上げ促進税制の恩恵を受けられない中小企業支援も念頭に、地方への交付金を拡充する。
中小・小規模事業者向けに「生産性向上支援」「事業承継・M&A環境の整備」「取引適正化」など、設備投資・賃上げを後押しする支援。
国・地方自治体から民間への請負契約単価について、物価上昇を踏まえて適正な見直しを進める。公的事業を受注する中小企業が負担を抱えないように。
税制面での検討項目もあり。例えば、「103万円の壁」の緩和(年収の壁)や、物価に連動させた基礎控除引上げなど、低・中所得層の手取り改善を図る。
2、成長投資
「成長投資」に加えて、「危機管理投資」という枠組みを打ち出し、長期の視点で日本経済の構造強化を図る。
経済安全保障、食料安全保障、エネルギー安全保障、健康医療安全保障、国土強靱化といった「リスク・危機」に備えるための投資を重点化する。
先端技術分野への支援として、例えば「AI・半導体」「造船」「量子技術」「バイオ」「航空・宇宙」「サイバーセキュリティ」などを明示。官民一体で、ベンチャー企業も含めて大胆な投資促進を図る。
地方創生・地域未来戦略との連携も。地方に大規模な投資を誘致し、産業クラスターの形成、二地域居住・関係人口創出、稼げる農林水産業の創出を通じて地域の付加価値を高める方針。
食料・農林水産業振興として、「5年間の農業構造転換集中対策期間」を設け、植物工場・陸上養殖・AI解析など先端技術を活用して輸出促進・稼げる農林水産業に転換する。
3、安全保障(経済・国防も含む)
単に「軍事・防衛」だけではなく、経済・エネルギー・食料・医療などを含めた広義の安全保障を政策に反映する。
防衛関連費を、今年度中にGDP比2%まで前倒しで増額する。
「主体的に防衛力の抜本的強化を図る」必要性を述べ、年次予算・補正予算による財政投入を強化する。
経済安全保障では、先端技術・インフラ・サプライチェーンの強靱化が重要とされ、特に「危機管理投資」との連携で、食料・エネルギー・医療といった「命・暮らしを守る」分野も安全保障化する。
エネルギー安全保障、食料安全保障、医療・健康安全保障、国土強靱化といった多面的な安全保障課題を政策の中心に据える。
どうだろうか? まずは政権の理想をてんこ盛りした形だ。ここで注意を要するのは、2と3は言うに及ばず、1の物価高対策としたものでも、オーソドックスな利上げや引き締め政策ではなく、歳出増を伴うものとなっていることだ。
つまり、「賃上げ・所得環境の改善」、「制度・税制・企業支援」、「ガソリン税、軽油引取税の暫定税率の廃止(減税)」、「補助金支援」、「補助措置」、「中小企業支援」、「地方への交付金を拡充」、「生産性向上支援」、「設備投資・賃上げ支援」、「103万円の壁の緩和」、「物価に連動させた基礎控除引上げ」など、積極財政のオンパレードなのだ。
これで見ると、高市政権の物価高対策とは、物価高を抑えるものではなく、物価高の悪影響を緩和する政策だと言っていい。このことは更なる物価上昇の懸念が残ることを意味し、この対策からは漏れている人々の生活を更に圧迫することを強く示唆している。
一方で、「成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑える」「政府債務残高対GDP比を引き下げる」との言及もあるが、そのためには大幅な税収増が必要となる。ところが、このところの税収増は基本的にインフレによってもたらされたものなのだ。
ところで私見では、アベノミクス2.0のハードルは高い。なぜなら、アベノミクス1.0当初の政府にはまだ余裕があると言えたが、そうした余裕はアベノミクスとコロナ対策とでほぼ使い果たしたと言えるからだ。
デフレからインフレへの変換というアベノミクス1.0は、累積赤字の拡大や公的債務の拡大という多大なコストを伴っただけでなく、大きな弊害も生んだ。最も大きな弊害は貧富格差や世代間格差などの拡大で、例えば持ち家は過大なリスクを取れる人たちだけのものとなった。
一方、アベノミクス1.0での目ぼしい成果は株高ぐらいのもので、しかもそれはインフレに伴う資産価値上昇と企業業績改善の側面が強いものだ。高市政権の物価高対策でも、株高は物価高の悪影響を緩和するので、その意味では良いインフレだと言えるかもしれない。貧富格差の更なる拡大に目をつぶる必要があるのだが。ここに、アベノミクスの開始時と終了時、そして現在の諸々の数値を比較してみよう。
第2次安倍政権は2012年(平成24年)12月26日から、2020年(令和2年)9月16日まで続き、歴代最長の内閣となった。
主な数値を2012年末と、2020年末、2024年末で比較してみる。
政策金利:0.1% VS -0.1% VS 0.5%(現時点)
日銀資金供給量:131兆円 VS 611兆円 VS 671兆円
名目GDP:500兆円 VS 539兆円 VS 617兆円
貿易収支:赤字6.9兆円 VS 黒字0.4兆円 VS 赤字5.3兆円
消費者物価指数:-0.3% VS -1.2% VS +3.6%
消費税率:5% VS 10% VS 10%
(消費税率を併記したのは、金融緩和で物価上昇が見られる度に消費増税が行われ、デフレに逆戻りしたためだ。)
一般会計税収:43兆円 VS 61兆円 VS 73兆円
一般会計歳出:96兆円 VS 148兆円 VS 127兆円
差額(赤字):53兆円 VS 87兆円 VS 54兆円
長期債務残高(国と地方の合計):932兆円 VS 1165兆円 VS 1311兆円
10年国債利回り:0.794% VS 0.035% VS 1.667%(直近)
日経平均:10395円 VS 27444円 VS 49300円(直近)
ドル円:86.46円 VS 103.22円 VS 152.86円(直近)
これらの数値が示しているのは、アベノミクスと異次元緩和は、基本的に物価高を導いただけに過ぎないと言えることだ。例えば、先週発表されたスーパーやコンビニの売上が示しているように、来客数や販売量が減っているのに、値上げで売上増を達成しているだけなのだ。
日本政府はそうした見せかけの成長と収益、税収を確保するために、巨額の債務を抱えるに至ったのだ。一方で、その巨額債務は金利上昇と共に、利払い額や借換え費用の急増を生む。そしてそれは今後の財政政策を更に圧迫することになる。
加えて、トランプ政権と約束した対米投資5500億ドルの拠出(米側発表)だ。この金額は直近のドル円レートでは84兆円にもなるものだ。日本の税収1年分をはるかに超え、財政支出の自由度を奪うことになる。石破政権の弁明のようにほとんどが保証だとしても、仮に全額損失となれば、保証した日本政府の債務となる。これは前政権からの負の遺産だと言える。
また、トヨタ自動車が米国の赤字を減らすために米国産のトヨタ車を逆輸入すると発表したが、これは日本の貿易赤字が拡大することを意味し、円安が進展することになる。貿易赤字の拡大による円安の進展は、輸出企業が受ける恩恵以上に、輸入インフレで日本全体が貧しくなることを意味している。また、対米投資額5500億ドルの円貨も膨らむことになる。
さらに、アベノミクス2.0では株高すら難しい。アベノミクス1.0の時のように、日銀の全面支援がもう望めないからだ。
日本取引所の投資部門別売買動向によれば、2005年以降25年9月までの日本株の買い手は、兆円単位で大きい順に、事業法人50.3兆円、日銀37.1兆円、外国人36.2兆円、他法人6.8兆円だ。とはいえ、最大の買い手の事業法人は自社株買いで、政策投資など他社の株は売っているために、株式の保有比率は継続的に下げている。
一方の売り手は、個人投資家54.7兆円、信託銀(年金)13.0兆円、生損保12.2兆円、都銀等10.0兆円、投資信託4.2兆円、他金融3.0兆円となっている。機関投資家は益出しやリバランスなど、値上がりが売りの最も大きな動機だが、長期間にわたって売り続けているのだ。
それでも株価が上げているのは投機資金の買いが大きいためなのだが、異次元緩和の頃に日銀が下値で待ち構えていたことが大きい。ところが先月、日銀は保有株式(ETF)の売却を決めた。100年以上にわたって売り続けるとのことなので、売り崩しとはならないが、事実上の最大の買い手が売り手に回ることの意味を、市場はまだ理解していないようだ。
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