・日米戦略的投資に関する了解覚書(MOU) | 矢口新

━━━━━━━━━━━ Seminar on Trading ━━━━━━━━━━━
    殿堂入りメールマガジン:「相場はあなたの夢をかなえる」
    ☆無料版(参照&登録):https://www.mag2.com/m/0000031054.html
「生き残りのディーリング」の著者による経済と相場の解説(折に触れて)
★有料版(\840税込:購読登録):http://www.mag2.com/m/0001111340.html
まぐまぐ大賞2016:資産運用(予想的中!)第1位(毎週月曜日)
━━━━━━━━━━━━【 Dealer's WEB 】━━━━━━━━━━━━━

・iPad、iPhoneでお読みの方は、上部アドレスバーにある[リーダー]をクリックすると、読みやすくなります。

 

 

 

☆日米戦略的投資に関する了解覚書(MOU)

日本政府が合意した対米投資について、先週号の末尾で私は、「次期首相が誰になるのかは知らないが、誰にとっても今回の日米合意は重い。米国に巨額の資金を貢ぎ続けるか、法的拘束力を持たないことを盾に、米国と決別するかの選択を迫られるからだ。とはいえ、これまでの首相たちがそうであったように、何とかなると思える人が次期首相になるのだろう」と述べた。

参照:81兆円のSPACを買った石破政権


当の合意文書について、より詳しい内容が知りたいとの声があったので、内閣官房サイトから英文の覚書文書を確認した。疑問点がある方々は原文を読むのが一番なのだが、その事実を知ったところで、一般国民には何も出来ることはない。そこで、AIに日本語に要約して貰ってご紹介する。


(了解覚書要約ここから)

原文(英語):MEMORANDUM OF UNDERSTANDING BETWEEN THE GOVERNMENT OF JAPAN AND THE GOVERNMENT OF THE UNITED STATES OF AMERICA WITH RESPECT TO STRATEGIC INVESTMENTS THE GOVERNMENT OF THE UNITED STATES OF AMERICA AND THE GOVERNMENT OF JAPAN, 


要約(日本語)

・基本合意

日本は、半導体・医薬品・金属・重要鉱物・造船・エネルギー(パイプラインを含む)・AI/量子計算など、経済・安全保障上重要な分野に総額5500億ドルを米国に投資する。
投資は2025年から2029年1月19日まで随時行われる。

・投資の仕組み

米国大統領が「投資委員会」の推薦を受けて投資先を決定。
投資委員会は米商務長官が議長を務め、必要に応じて関係省庁も参加。
日米両国の代表からなる「協議委員会」が戦略・法的観点で助言。
投資の執行は「米国投資アクセラレーター(商務省下部組織)」が担当。

・資金提供と配分

日本は米国が提示した案件に対し、通知後45営業日以内にドルで資金拠出。
日本が資金拠出を拒否・不足した場合は、利益分配が不利に変更され、さらに米国が日本製品に関税を課す可能性あり。

利益分配は当初「米国50%・日本50%」、その後は「米国90%・日本10%」。

・日本企業の優遇

投資に関わる調達では、可能な限り日本のベンダー・サプライヤーを優先。

・法的位置づけ

この覚書は 法的拘束力のない行政上の了解 であり、第三者に権利を与えない。

・紛争解決

問題が生じた場合は協議を通じて友好的に解決を図る。

・期間・変更

署名日から有効。双方の合意で修正可能。いずれの国も書面通知で終了でき、その際は既存投資について協議。

(了解覚書要約ここまで)


この覚書はどう見ても日米不平等合意だ。日本側はその見返りとして総合的な関税率15%を「勝ち取った」。もっとも、当初の50%から見れば勝ち取ったとは言えるものの、50%ははなから交渉用のふっかけだとも言えるので、関税15%が米国側の譲歩なのかどうかは意見が分かれるところだろう。その意味では、日本側は一方的に米側に押し切られたと見ていいかもしれない。

この覚書や米政府の発言をもとにした合意内容の要点は以下の通りだ。

1、誰が投資判断を行うか。

投資は米国側のみの投資委員会が提案、日米両国の代表からなる「協議委員会」が助言を行い、「トランプ大統領が直接指揮する」。

トランプ大統領は「米国の希望する投資先を日本がファイナンスする」と明言、日本からの5500億ドルの投資について、「我々の資金であり、我々の好きなように投資できる」としている。ホワイトハウス発表のファクトシートにも、トランプ大統領が主導して米国の産業再生のために実施されるという趣旨が記載されている。

ラトニック商務長官も、投資用途に関しては「トランプ大統領に完全な裁量権」が与えられており、日本などの出資国側の意向はほぼ反映されないと明言している。


2、資金は誰が提供するか。

日本側が資金提供するにあたり、「指定口座に即時利用できるドル建てで拠出し、米国大統領が選定したプロジェクトに使う」という枠組み。四半期ごとに米側が進捗や運用を監査する体制となる。

日本が約束した投資を行わなかったり、資金提供をしないと判断される案件があると、米国は日本産品に対する関税を引き上げるなどの措置をとる可能性がある。逆に、日本が投資を履行する場合には、その見返りとして関税の引上げを回避する。 つまり、関税引上げ回避のために、日本側が100%のリスクを取ることになる。


3、投資リターンはどうなるか?

投資ポートフォリオ・資金管理・利益配分のためのSPV(特別目的会社)を設置。SPVは米国または米国が指名する者が管理・統治する。 

投資から得られるキャッシュフローの分配について、日本側と米側で段階的な配分ルールがあり、「みなし配分額」に達するまでは双方が50:50で、その後は米国側が90%、日本側が10%を得る仕組み。 


4、懸念されている点は?

・透明性や法的拘束力の曖昧さ。
・約束の履行条件や基準が不明確。
・実現可能性。これほど大規模な投資を比較的短期間で行うことが、物理的・法制度的・資金調達の面でどこまで可能か。 
・政府の産業介入・国家資本主義化への懸念。
・日本側との理解と認識のズレ、などだ。


これら透明性、曖昧さ、不明確などは、日本側が圧倒的に不利であることを示している。ルールは弱者を守るためにある。強者はルーラーだからだ。また、実現可能性は大だ。損失は100%日本が被り、利益は最大90%取れるのだから、トランプ氏は退任までに5500億ドルを使い切ると見るのが自然だ。資金調達が出来なければ、懲罰的な高関税が待っている。

一方、世界には「政府の産業介入・国家資本主義化」を進めることで成長している国々があり、米国のライバルとまでなった国もある。トランプ氏はその国を念頭に「政府の産業介入・国家資本主義化」を目指しているので、懸念の段階は過ぎている。

また、「日本側との理解と認識のズレ」というのは、日本政府が国民相手に単に希望的観測を述べているだけだと言っていい。事実は覚書にある通り「日本政府は5500億ドルを米政府に提供し、提供資金が最大全額なくなるリスクを負いながら、リターンは最終的に利益の1割だけに留まる」ということだ。


では、政府はその巨額資金をどうやって捻出するつもりだったのか? 資金調達の方法の可能性をAIに尋ねてみた。


(以下がAIの答え)

1、政府系金融機関を通じた拠出

日本政策投資銀行(DBJ) や 国際協力銀行(JBIC) が、米国の戦略分野への投資資金を拠出・保証する役割を担う可能性が大きい。

特に JBIC は過去にも「エネルギー確保」「半導体支援」などで海外投資ファンドを通じた案件を支援しており、今回の枠組みにも適用しやすい。

政府保証付きの債券発行(円建て・ドル建て)で資金を集めるシナリオが濃厚。


2、官民ファンドの組成

日本政府が一部出資し、民間金融機関(メガバンク、生命保険会社、GPIF 等)が資金を供給する 官民共同のファンド を設立する方式。

すでに日本国内には「産業革新投資機構(JIC)」や「海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)」など官民ファンドが存在しており、類似のスキームで米国投資用の新ファンドが想定される。


3、日本企業による直接投資(FDI)

「5500億ドルの全額を日本政府が調達」ではなく、実際は 日本企業が米国内に工場・研究開発拠点を建設する投資 をカウントする可能性が高い。

例:トヨタやホンダのEV工場、ソニーやキオクシアの半導体関連投資、製薬企業の生産拠点など。

つまり、政府は保証・補助金で企業を後押しし、実際の資金負担の多くは企業の資本投下や借入でまかなう形。


4、外貨準備や公的資金の活用

日本は世界最大規模(1兆ドル超)の外貨準備を保有しており、その一部を「米国戦略産業投資」として運用するシナリオもあり得る。

ただし、外貨準備は米国債など流動性の高い資産が中心であり、直接産業投資に回すには制度変更やリスク管理が必要。


5、年金・機関投資家資金の動員

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) や生保などが、米国戦略産業向けインフラファンド・SPVに投資する形で参加する可能性もある。

GPIF はすでにESG投資・インフラ投資を行っているため、「米国の戦略分野(半導体、エネルギー、医療など)への投資枠」を設けるのは現実的。

(AIの答えここまで)


そんなところではないか? 皆さんはこれをどう思われるだろうか?

資金提供は「日本政府は5500億ドルを米政府に提供し、提供資金が最大全額なくなるリスクを負いながら、リターンは最終的に利益の1割だけに留まる」という、とんでもなく投資家不利なSPAC方式のファンドに対して行うことになる。

仮に、政府が拠出する真水資金が1%で、99%は保証だとしても、誰かが債券を買うなどして99%の資金をSPVの口座に振り込まねばならない。また、投資資金が100%回収できないような場合には、日本政府と日本政府に協力した誰かとが合わせて5500億ドル(147円で81兆円)を失うことになる。

つまり、トランプ氏の人間性とファンドマネージャーとしての力量だけを「信じて」、事実上の白紙委任に資金を出すのだ。しかもそのリターンは、仮に投資で20%の利益が出たとしても、日本側には2%しか来ない。そんなリターンで、日本政府はその債券にどれだけの金利を付けられるのだろうか?

それでも米政府が日本に感謝するとは思わない方がいい。かつて西欧諸国は植民地支配で栄えた。その時、搾取した側の西欧人は称えられたが、搾取された側が感謝されたという話は聞かない。それどころか、植民地は「なめられ」、ほとんどの場合その支配から逃れるには武力を使うしかなかったのだ。

そんな最低に近い「投資」物件に資金を提供する日本の機関投資家や民間企業などがあるだろうか? 仮にあったとしても、このような背任行為に近い投資を株主が許すだろうか? 

日本政府が「政府の産業介入・国家資本主義化」的に圧力をかけてきても、現在、日本株の3割以上は外国人が保有しているのだ。

こうした不平等な投資が正当化できるほど、トランプ関税は恐いのだろうか? 脅せば折れる。脅す側について、自国民の犠牲のもとに自己の保身を考える者がいる。そういうことが続く限り、日本は貧しくなるばかりだろう。

 

 


・Book Guide:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?/ How to protect the pension and medical care systems (Arata Yaguchi: Paperback)

・Book Guide:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?/ How to protect the pension and medical care systems (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・Quiz Book:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?: 57 questions to reveal the problems of the Japanese economy (Arata Yaguchi: Kindle Edition)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム: グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)

 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、Kindle Edition)
 

・著書案内:日本が幸せになれるシステム問題集・日本経済の病巣を明らかにするための57問(著者:矢口 新、Kindle Edition)




---------------------- Seminar on Trading ---------------------
         毎日、数行! マーケット情報で学ぶ経済英語!
    ☆無料(参照&登録):https://www.mag2.com/m/0000142830.html
一週間のまとめはブログでも読めます:https://ameblo.jp/dealersweb-inc/
------------------------【 Dealer's WEB 】-----------------------

 

 

 

☆【投資の学校プレミアム


☆「矢口新の短期トレード教室」
転換点を見極め、利益を残す方法を学ぶ
http://www.tradersshop.com/bin/showprod?c=9784775991541

ブログ一覧に戻る