・ステーブルコインとドル覇権 | 矢口新

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☆ステーブルコインとドル覇権

トランプ政権が暗号資産(仮想通貨)新法の成立を目指している。正式名称は「Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act(GENIUS Act)」で、ドル連動型ステーブルコインの発行者に対し、明確な保有準備金・消費者保護・資金洗浄対策を義務づけるものだ。決済用ステーブルコイン発行体に対し、ライセンス取得を義務付け、準備金制度を導入するなどの明確な規制枠組みを定める。100億ドル以上の大規模な発行体には、公的機関による規制監督を課し、それ以下の発行体は州当局の規制下での運営が認められる。

同法案は6月17~18日に上院を超党派(賛成68、反対30)で可決され、現在、下院で審議中だ。

これは暗号資産に対して、これまでの抑制ではなく推進を選択したもので、1コイン=1米ドルの「クリプト(暗号資産)ダラー」とでも称するステーブルコインの普及と、仮想通貨を国家戦略資産にすることを狙っている。国家戦略資産としては、既に差押ビットコインを備蓄資産として積み上げている。また、ブロックチェーン上での分散型金融を推進する一方で、中央銀行デジタル通貨は否定するようだ。

ベッセント財務長官は6月11日の下院公聴会で、ドル連動のステーブルコインは米国債で裏打ちされる必要があるので、普及すれば「基軸通貨ドルの優位性を固定できる」と説明した。その市場規模は現在の2340億ドルから3年で2兆ドルまで膨らむと分析されている。


ステーブルコインの利点は、ドル連動なので価格が安定していること。ビットコインのような何の裏付けもないが故の、価格変動の大きな投機商品とは別物だ。

これは商業取引や海外送金、分散型金融で活用しやすい上に、銀行口座がなくてもドルの価値を保持できる利点がある。そのため、新興国などではインフレ対策や資本規制回避のため、クリプトダラーが事実上「デジタルドル」として使われていることも多い。例えば、アルゼンチンやトルコなどでは現地通貨より信頼されているとも言われている。

銀行システムを使っての海外送金は、通貨換算手数料や電信送金料、中継銀行手数料などのコストがかかり、2日ほどの時間もかかっている。ステーブルコインは即時決済が可能で手数料もゼロに近いため、国際送金の勢力図を大きく変える力を秘めているのだ。

また、ウォルマートやアマゾン・ドット・コムなどの米小売り大手が独自のステーブルコインを発行して支払決済に導入することを検討している。旅行会社のエクスペディア・グループや航空会社なども、ステーブルコインの発行について議論しているという。

また、カナダのショッピファイは自社では発行せず、米大手取引所コインベースとの提携を通じて、ステーブルコインによる決済を開始したと発表した。

これらは伝統的なカード決済に伴う加盟店手数料の大幅削減や、決済の迅速化に繋がるので、従来の金融機関の優位性を揺るがす可能性がある。


現在、ドル連動ステーブルコインの発行主体は民間の暗号資産企業で、最大手はテザー社、次いでサークル社などだ。ドル連動通貨を発行するには、発行金額と同額以上のドルの安定資産を積む必要がある。具体的には、米国の短期国債だ。それでも、発行体が不正を行えば裏付けの前提が崩れるので、GENIUS Actで発行体を規制することになる。

誰かがテザー社の市場から1000テザーを買い、市場に売り手がいない場合、テザー社は仮想通貨テザーを発行し、ドルと連動させるために例えば1000ドルの1年物Tビルを買うことになる。現在1年物Tビルの利回りは4.1%なので、1000ドル支払えば約1041ドル分のTビルが買えることと同じ意味を持つ。ステーブルコインは通貨と同等で金利を付ける必要がないために、1年後にはこの41ドルがテザー社のものとなる。

トランプ大統領の一族は利益相反との厳しい批判を受けながらも、関連会社を通じて自らドル連動ステーブルコイン「USD1」の発行も始めた。

その市場規模が現在の2340億ドルから3年で2兆ドルまで膨らむと、発行体の利益は膨大なものとなるが、同時に米短期国債の需要も増加分だけ増えることになる。満期1年以下の米短期国債の発行量は5兆ドル程度なので、政府の資金調達が容易となり、調達コストの低下も望めるようになるのだ。

また、これはドル需要の増大も意味するので、1950年代のユーロダラー、70年代のオイルダラーに次ぐ、クリプトダラーがドル覇権の維持に貢献することになると期待されている。同時に、ブロックチェーンの世界を基軸通貨ドルで支配することも狙いだと言われている。

ロシア制裁でロシアの官民のドル資産を凍結し、ロシアの銀行を通貨の銀行間送金システムから締め出したことで、覇権を誇ってきたユーロダラーやオイルダラーが敵対国や中立国の一部から危険視されるようになってきた。ロシアは第三国通貨を使ってインドなどと貿易するようになり、中国は人民元建てでの原油輸入を始めている。

私見では今のままでも米ドルの優位性が揺らぐことはないと見ているが、クリプトダラーがドル覇権の維持に貢献することは疑いがないと言っていいだろう。

 

 


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