・原油価格の見通しと、日本への影響 | 矢口新

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☆原油価格の見通しと、日本への影響

米国とイスラエルによるイラン攻撃に伴う原油価格の高騰を受け、日本政府は家計や企業への影響を抑えるための緊急対策を講じた。

主な対応策は、1、石油製品への直接的な価格抑制。2、石油備蓄の放出。3、事業者への資金繰り支援といったものだ。

1、ガソリン、軽油、灯油、重油、航空機燃料の価格抑制のため、石油元売り会社などに対する補助金を再開、強化した。そのため、2025年度予算の予備費から約8,000億円を追加支出するなど、長期化に備えた基金の積み増しを行なっている。

2、国家備蓄の放出を開始した。各国と連携しつつ、安定供給を最優先するというもの。

3、漁業、農業を含む燃料費の高騰が経営を直撃する事業者に対し、個別の支援策も実施されている。低利融資に加え、タクシー事業者に対しては、LPガス燃料費の補助を延長。また、物流コストの上昇を価格転嫁しやすくするためのガイドラインの周知や監視を強化している。

また、当局は原油先物市場への介入を視野に、複数の金融機関への聞き取りを実施した。片山財務相は、投機的な原油市場が為替に影響を与える可能性を踏まえ、「いかなる時もあらゆる方面で、あらゆる場面で万全な対応」を取るとした。

原油先物への介入は法的には可能で、特別会計法76条は為替の安定のためであれば外国為替資金特別会計(外為特会)を使い先物市場での取引ができると定めているという。


一方、米国はイランがホルムズ海峡を「完全かつ即時、安全に開放」することを条件に、対イラン攻撃を2週間停止すると発表した。

停戦は「双方によるもの」で、「イランから受け取った10項目の提案は、交渉のための実行可能な基盤だ」とし、主要な争点の多くで合意に近づいているとした。米政府高官は、イスラエルもこの停戦枠組みに同意し、協議期間中は対イラン空爆を停止すると述べた。

イラン側も「イランに対する攻撃が停止されれば、わが武装部隊は防衛作戦を停止する」と表明、その上で「2週間に限り、イランの武装部隊との調整の下でホルムズ海峡の安全な通航を認める」と述べた。

それを受けて、株価は急回復した。

イランが示したとされる10項目の提案は以下のようなものだ。

1、恒久的な戦争終結
2、イランへの将来の再攻撃を防ぐ安全保証
3、地域全体での敵対行為の終結
4、対イラン制裁の解除
5、ホルムズ海峡の運航再開
6、安全航行ルールの確立
7、通航料制度(1隻約200万ドル)の導入
8、通航収入をオマーンと分配
9、通航収入のインフラ復旧への充当、
10、合意履行を担保する協議・監視枠組みの設置との内容

これを米国が飲めるだろうか? ここには、米国がなぜ1979年以来イランを制裁してきたかをうかがわせる要因が見られない。それに触れないで、制裁解除などが望めるのだろうか? これを米国が受け入れれば、攻撃されたイラン側が、ホルムズ海峡封鎖という反撃で、イラン大勝利で終えることを可能にする。


一方、次のような10項目だとする報道もあった。

1、すべての当事者が戦闘を停止する
2、イランはウラン濃縮を民生レベル(3.67%以下)にとどめ査察も受け入れる
3、米国はイランに民生レベルのウラン濃縮を認める
4、イランはホルムズ海峡を開放する
5、その引き換えに米国がすべての制裁を解除する
6、相互不可侵条約を締結する
7、両国間での通商を保証し、イランは油田開発などに米国を含む世界の企業を受け入れる
8、米国はイランの被った損失を補償する(米国の戦費は1日5億ドルにものぼると試算されていて、それより安上がり)
9、米中ロなどと協力し、原子力発電に関心を持つ周辺国(イスラエルは含まれない)と共同施設を作り、イランはここに濃縮ウランを移す
10、ホルムズ海峡の安全な航行のため恒久的な枠組みを周辺各国と安保理常任理事国で作る

ここでは少なくともイラン制裁の要因の1つであったウラン濃縮問題が触れられてはいるが、この問題は制裁の主因ではない。つまり、核兵器を開発しようとするから制裁されたのではなく、制裁下の国が核兵器を開発しようとすることが許されないのだ。順序が逆なのだ。

いずれにしても、ここでも攻撃されたイランの方が、ホルムズ海峡を封鎖したことで、イランの大勝利に近い形で終わることになる提案だ。


これらが終戦に繋がるのならば、ホルムズ海峡の封鎖でインフレに苦しむ米国民がトランプ支持率を低下させたことで、米国はイラン制裁を解除するだけでなく、ホルムズ海峡の利権を認め、損失まで保障することになる。「ペルシャ文明を地上から消す」と脅して和平交渉を持ち掛けながら、一転して米国は完全な負けを認めることになるのだ。

株式市場はそんな形の終戦を信じて急騰したのだろうか? そんなことはない。実際には、前もって情報を得ている投機筋が先導し、それをカタパルトに投機資金が買い上げただけだ。あとは単なる追随だ。いずれ、逆方向にも同じようなことが起きる可能性が高い。

いずれにせよ株価が上げている一方で、停戦中であるはずのホルムズ海峡は「完全かつ即時、安全に開放」されてはいない。イスラエルがレバノン攻撃を続けているためで、この点に関しては米国とイランとに意見の相違が見られている。

仲介国パキスタンを訪れていたバンス副大統領は現地時間12日、イランとの戦闘を終結するための協議を切り上げると表明した。「合意に至らないまま米国へ戻ることになる」と記者団に語った。

米国とイランとの和平交渉案に全く欠け落ちているのが、イスラエルの存在なのだ。

このイラン攻撃は、イスラエル抜きには理解できない。そこで前回、原油価格見通しの前に米国とイスラエルの関係について述べたのだ。

参照:石器時代に戻す


以前、クリントン元大統領の共著「The President Is Missing」という小説を読んだことがある。サイバー犯罪を描いたアクション物とでも言える小説なのだが、私が興味深く思ったのは、米中枢とイスラエルのスパイ組織との密接な関係だった。

ソロモン、リーマン、ゴールドマンなどはユダヤ系の名前で、米金融界を牛耳っていた。ハリウッドやメディアへの影響力も強い。また、ビリオネアらは税金を政府に納める代わりに、非課税の寄付を行い、それで政府を動かしている。ビリオネアの卒業生らは出身校へ多額の寄付を行うことで、理事会への影響力を強めている。

彼らによるそうした米政治、米社会への投資は、イスラエルへの桁外れの支援金や、イスラエル国債への保証、ガザ侵攻への支持などといった大きなリターンを産んでいるのだ。


イスラエルの建国は1948年だ。それまでアラブ人(パレスチナ人)が住んでいた地域に、英国後ろ盾による国連分割案で建国されたため、反対する近隣アラブ5カ国(エジプト、ヨルダン、シリア、レバノン、イラク)とで第一次中東戦争(1948年5月~1949年7月)が起きた。結果はイスラエルが勝利。国境は国連分割案より拡大。パレスチナ難民問題が深刻化した。

一方、中東だがペルシャ人の国、当時は親米だったイランはイスラエルを承認した。

第二次中東戦争(スエズ危機、1956年10月29日~11月7日)、第三次中東戦争(六日戦争、1967年6月5日~6月10日)、第四次中東戦争(ヨム・キプール戦争、1973年10月6日~10月25日)を経て、1979年3月、エジプトとイスラエルは「キャンプ・デービッド合意」平和条約を締結。エジプトはアラブ諸国で初のイスラエル承認国となり、イスラエルはシナイ半島を返還した。

一方、1979年2月にはイラン革命が起き、イスラエルと断交していた。

これらで米国は一貫してイスラエルを支援した。一方、米国の対外支援はイスラエルに次いでエジプトが多い。インフレ調整後の支援金3位以下は、米国が直接、間接に戦争したベトナム、アフガニスタン、韓国、ウクライナの順なので、エジプトの厚遇が目立っている。ちなみに、ゼレンスキーもユダヤ人だ。

そして、イスラエルのネタニヤフは2023年10月にガザ侵攻を開始、攻撃の手をヨルダン川西岸、レバノン、シリア、イラン、イラクへと拡大している。

米国は2024年にイスラエルへ2000ポンドの地中貫通型爆弾を提供、レバノンで地下数十メートルに潜んでいたヒズボラ指導者殺害に使用。他に10万発を超える爆弾や砲弾を提供。953億ドルのウクライナ、イスラエル支援が米上院を通過した。

つまり、米国のイラン攻撃は、トランプが始めたものではない。このことは、支持率が下がったからといって、トランプがイラン有利な終戦などできないことを示唆している。

イスラエルはパレスチナに元からいた少数のユダヤ人たちに加えて、世界中からユダヤ人たちが集まって建国した。近隣のアラブ人たちと仲良く暮らしたいと望む人たちも多くいると思うが、米国をも動かせる世界のユダヤ人社会はイスラエルの拡大を望んでいるかのような動きだ。それはつまり近隣諸国と仲良くするのではなく、攻め入ることを意味している。


イラン攻撃の主体はイスラエルと米国だ。イランに主導権はない。イスラエルはガザのように地域全体を廃墟とすることも厭わない。そのイスラエルを米国は完全に支援している。一部の寄生虫が宿主を死地へも操るように、少なくともイラン問題では米国の主体性も疑わしい。イスラエルが望まない限り、イラン攻撃がイランの望むような形で終わる可能性はゼロに近いのだ。

一方、イランはずっと戦い続けてきた。このことはイラン側に無条件降伏は望めず、中東の平和がますます期待薄になったことを示唆している。米とイスラエルは中東を戦場としているので、原油価格の上昇は不可避だと考えるのが自然だ。

とはいえ、原油が手に入らなくなる訳ではない。米国にもベネズエラにも、カナダにも、メキシコにもある。日本は買えないが、ロシアにもある。米国は日本に「高く」売りたくてたまらないのだ。

日本の原油高対策は小手先のもので、備蓄、財政を削っての一時しのぎでしかない。今後は、原油高、天然ガス高が示唆するエネルギー価格、食料価格、運送料、石化製品などの大幅値上げを覚悟しておいた方がいいだろう。

 

 

 

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