・石器時代に戻す | 矢口新

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☆石器時代に戻す

2月末の米国とイスラエルのイラン攻撃を受けて、私は次のように述べた。「これまでカリスマ的な軍最高司令官が米軍に暗殺されても、首都や軍施設が爆撃されても、基本的には静観を保ってきたイランの最高指導者が殺害されたことで、もう地政学的リスクに触れることは止めようと決めた。

これまでは潜在的に大きなリスクに警鐘を出す目的でコメントしてきたが、ここまで顕在化してしまえば、もはや警鐘の意味がないからだ。

これからは、こうした『暗黒時代』をどう生きていくか、それぞれが問われる時代になったと見ている。」

そして、今回は「原油価格の見通しと、その動向が日本に与える影響」について述べようと考えていたが、その前に米国とイスラエル、イランの関係について知って置く必要があると思うので、原油価格については次回に回すことにする。


先日の記者会見で、米トランプ大統領は、米国に従わないなら「イランを石器時代に戻す」と述べた。この表現には聞き覚えがあったので、私は自身のブログを検索した。記憶に間違いはなかった。イスラエルのネタニヤフ首相が「レバノンを石器時代に戻す」と発言していたのだ。

このコメントは、今のイランでの戦争の理解にも役立つので、以下に全文をそのまま引用する。

引用前に断っておく。コメントの末尾に次のような部分がある。「『米国とイスラエルの関係は特殊に近いと呼べるほど強い』ことを鑑みれば、イスラエルの命運は米国が握っていると言っていい。11月5日の大統領選でハリス氏が勝利すれば、ネタニヤフの狙いは大きくは外れない。つまり、中東での戦火は拡大し、世界の地政学リスクは高まり続ける。しかし、『欧州と中東の戦争をすぐにでも終わらせる』とするトランプ氏が勝利すれば、どうなるか分からない。

トランプも長女の夫がユダヤ人で、長女もユダヤ教に改宗していることを鑑みれば、反イスラエルではない。しかし、イスラエル国内外のユダヤ人たちが、目的のためには手段を選ばないネタニヤフに賛同しているわけではないのだ。」

この「欧州と中東の戦争をすぐにでも終わらせる」、トランプを信じたのは、JDバンス副大統領も同様だとされている。そのため、イラン攻撃後には同氏の発言の歯切れが悪くなり、トランプの後継者はバンスではなく、ルビオ国務長官が急浮上したと言われている。

こうして見ると、誰が米国の大統領になっても、イラン攻撃は行われた可能性があったことになる。


(引用ココカラ、URLまで)


・イスラエルの命運と米大統領選

イスラエルによる容赦のない「報復」に終わりが見えない。イスラエルのネタニヤフ首相はレバノンを石器時代に戻すとして、ハマスやヒズボラだけでなく、ウエストバンクに325万人、ガザに222万人いた(パレスチナ中央統計局のデータ、2023年)パレスチナ人の全員、加えてヨルダンに246万人、シリアに65万人、レバノンに54万人いるとされるパレスチナ難民のすべてを殲滅させるかのような勢いだ。

ネタニヤフは攻撃の理由を、国家の存続をかけた「自衛のための戦い」だとしている。とはいえ、ガザからウエストバンク、レバノン、シリアと、次々と戦火を拡大していくことが本当に自衛だと言えるのだろうか。

ネタニヤフの狙いは何なのか? そこで、2023年以降、私が記録に残しているイスラエルに関する記事を抜粋して提示しようとしたが、あまりに多くて読みづらいものとなるので、イスラエル問題の理解にとって特に重要だと思われる点だけに絞って述べることにする。以下の要点はすべて米英メディアが報道したものから出来るだけ時系列的に、私見を交えてまとめた。

1、米国とイスラエルの関係は特殊に近いと呼べるほど強い。米国が1946年以降に1000億ドル以上の対外支援を行った国は5カ国だけ。多いものからイスラエル、エジプト、アフガニスタン、南ベトナム、ウクライナの順だ。

資金の流れは口先や建前以上に本音を反映する。政府の支出を見れば、重視している政策が分かる。その意味で、通貨の価値が変わっているとはいえ、この5カ国は第2次世界大戦後の米政治の強い外交政策的な意向を示していて興味深い。このうち、最も多い対イスラエル支援は約3100億ドルだ。2位のエジプトは1700億ドルもないので、突出して多い。また、米国はイスラエル政府の債務も保証している。

2、ユダヤ人の富豪はその資金力を背景に、米国の政治、メディア、教育に絶大な影響力を持っている。ロビー活動や株式保有、大学などへの寄付を投資と考えれば、ユダヤ人の富豪は投資に見合う以上のはるかに大きなリターンを得ているとも言える。中東におけるイスラエルとの関係を鑑みれば、米政府の執拗なイラン敵視や制裁への影響も否定できない。

3、米国はイラク戦争と、その後に台頭したIS(イスラム国)勢力やイランに対抗するため相応の米軍をイスラム圏に置いていた。しかし、このところ緊張を高めている中国やロシアとの抗争に備えるためにアフガニスタンから米軍を撤退させ、中東においても約3万人に削減していた。

イラク戦争で破壊された当地の治安維持に最も貢献し、ISとの戦闘の先頭に立ってきたのはイランだったが、米軍はその最高司令官をバグダッドで殺害した。また、米国はイランのオッペンハイマーと呼ばれた原子物理学者を含め、複数の核専門家を殺害してきた。

4、2023年7月にイスラエル議会は司法改革法案を通し、最高裁判所の政府の決定を阻止する権限をはく奪した。

この法案に対しては政府の行動に対しての歯止めを失うとして医師の団体がストライキを行うなど、インテリ層からの強い抗議運動があった。また、ムーディーズなどの格付け機関が将来の格下げ警告を行った。(後に複数の格付け期間がイスラエルの政府債務を格下げした。)

5、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を4、5日前には知っていた筋がイスラエルの株式を確信犯的に異常な規模で空売りしていた。

イスラエル当局が異変に気付いて何らかの対策を打った形跡はなく、侵攻当日は(投機筋の予想通りに?)イスラエルが誇る防空システムが機能停止となっていた。

6、ハマスの攻撃を受けて、イスラエルは過去最大30万人の予備役を召集、ガザを「完全包囲」状態で空爆の後、ガザ全土への地上侵攻を開始した。ガザは「天井のない牢獄」と呼ばれ、長年イスラエルの事実上の監視下に置かれていたため、十分な反撃能力もないまま国土のほぼ全土が瓦礫化した。

7、全米の大学で起きた反戦運動を有力な寄付者たちが大学に圧力。ウォール街の金融業者たちが、イスラエル批判を糾弾するよう大学に圧力をかけた。ハーバード大学など複数の大学では管理不行き届きだとして学長らが議会で詰問された後に、各校の理事会によって解任された。

8、バイデン政権はイスラエルやウクライナ支援を進めるため、武器生産拡大に向けて500億ドルの予算を議会に要請した。この規模は日本の防衛予算1年分に匹敵する。

9、アラブ首長国連邦、ヨルダン、バーレーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、オマーン、エジプト、モロッコなどが、イスラエル軍によるガザでの民間人殺害と国際法違反を非難した。しかし、国連の非難決議は米国が拒否権を発動。

また、国連裁判所がイスラエルのパレスチナ地域の支配は国際法違反だとし、ラファでの軍事作戦の一部停止を命じた。

10、ガザを完全制圧したイスラエルは、ウエストバンク、レバノンと侵攻を拡大。同地の国連職員らも殺害した。

11、米国はイスラエルへの軍事支援を拡大、2000ポンドの地中貫通型爆弾を提供した。これはレバノンで地下数十メートルのアジトに潜んでいたヒズボラ指導者殺害に使用された。他に10万発を超える爆弾や砲弾を提供。また、953億ドルのウクライナ、イスラエル支援が米上院を通過した。

12、ヘイトクライムの対象になっていたイスラエル国外のユダヤ人たちが反戦運動。

13.イスラエル国内でも政府に対する抗議行動。複数の軍幹部が辞任。政府は超原理主義ユダヤ教徒の徴兵免除を撤回。イスラエル軍を揺るがす性的虐待事件を医師らが警鐘。

14、2023年の世界軍事支出は前年比6.8%増の2.4兆ドルと過去最大を記録した。

15、戦争で荒廃したガザでポリオ発見。病気が新たな脅威に。ポリオは世界のほとんどの地域で根絶されているが、ガザでは公衆衛生設備が破壊されたため。後に、イスラエルは子供たちへのワクチン接種を認めた。

16、ガザ支援物資を送る人道支援団体が銀行問題に直面。欧州や米国の人道支援団体のいくつかは、10月7日のハマス主導のイスラエル攻撃以降、理由も示されないまま銀行口座を閉鎖され、取引が凍結されたと述べた。

17、レバノンで、数千人のヒズボラ工作員が携帯していたポケベルやトランシーバーが爆発した。レバノン全土で約3000人が負傷、十数人が殺害された。

18、米国防総省、イスラエルに対ミサイル・システムと部隊を派遣すると発表。米国が2024会計年度(23年10月~24年9月)に実施した対イスラエル軍事支援が179億ドル超と、過去最高を更新した。またガザ戦争が始まって以来、合わせて220億ドルを超える米国の税金がイスラエルへの援助に使われた。

19、ガザでの直接的な死者数は、現在4万人を超えると推定されているが、そのほとんどはハマスのメンバーではなく、ハマスの行動に対して何の影響力も持っていない幼児を含む一般人たちだ。

また開戦以来、6万7000人ものガザの人々が餓死した可能性があり、さらに1万人以上が瓦礫の中にまだ埋もれているために死者数にカウントされていない可能性があるとされている。

20、イスラエルがシリアのイラン大使館を空爆。イランに亡命していたハマスの幹部も暗殺した。イランがイスラエルを報復爆撃。米国はイスラエルに対ミサイル防空システムを提供すると発表。

21、イスラエルはハマス指導者シンワル氏を殺害したが、戦闘の継続を宣言。イスラエルは同氏殺害の様子を公開した。


2023年10月7日、「天井ない牢獄」に完全に封じ込まれていたはずのハマスによるイスラエル攻撃は、当初驚きをもって受け止められた。ミサイル攻撃にも耐えられるはずの防空システムが機能せず、軽装備だが多方面から多人数の越境侵攻を許したからだ。

しかし、これがこれまでにも多くの戦争で、開始の口実として用いられてきた「罠」だとすれば、「軽装備だが多方面から多人数の越境侵攻」を許した驚きがむしろ弱まる。その後の展開は上記に掲げた通りだ。

では、ネタニヤフは自国民(の一部)を犠牲にしてでもガザに侵攻し、戦火を拡大する必要があったのだろうか? また、それが「自衛の大義」に繋がるものなのだろうか?

考えられるヒントは、上記3の「米軍を中国やロシアとの抗争に備えるためにアフガニスタンから撤退させ、中東でも約3万人に削減していた」という部分だ。

中東情勢について上記に付け加えるならば、2023年3月にサウジアラビアとイランが歴史的な和解に至ったことだ。そして、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は2023年の首脳会議において、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)を2024年1月1日より正式加盟させ、11カ国体制になることを承認した。

これはイスラエルの立場から見れば、敵対しているイランが自国の隣国エジプト、サウジアラビアの仲間となり、ロシアと中国の後ろ盾も得るという懸念を高める。つまり、イスラエル建国以来の危機だとも見なせるのだ。

周りを敵国に囲まれることにもなりかねないイスラエルの選択肢は、イランを含むアラブ諸国と「歴史的和解」を行ってアラブ諸国の仲間入りをするか、中東で戦火を拡大することで米軍を縮小から再拡大へと促し、敵対諸国より優位に立つかの2つだったとも言える。

ここで上記1、「米国とイスラエルの関係は特殊に近いと呼べるほど強い」ことを鑑みれば、イスラエルの命運は米国が握っていると言っていい。11月5日の大統領選でハリス氏が勝利すれば、ネタニヤフの狙いは大きくは外れない。つまり、中東での戦火は拡大し、世界の地政学リスクは高まり続ける。しかし、「欧州と中東の戦争をすぐにでも終わらせる」とするトランプ氏が勝利すれば、どうなるか分からない。

トランプも長女の夫がユダヤ人で、長女もユダヤ教に改宗していることを鑑みれば、反イスラエルではない。しかし、イスラエル国内外のユダヤ人たちが、目的のためには手段を選ばないネタニヤフに賛同しているわけではないのだ。

同じように、ウクライナのゼレンスキー大統領の命運も米国の大統領選に左右される。トランプは「ウクライナ戦争の原因はロシアを挑発したゼレンスキーにある」としているからだ。そうした見方は、トランプ特有のものではない。米国民の多くはそうした見方を支持している。
参照:イスラエル、ウクライナ戦争への対応ではトランプ氏が優勢、世論調査。
Trump Has Clear Edge on Handling Israel, Ukraine Wars, WSJ Poll Shows 


ウクライナ戦争開始後のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に、米国が巨大支援を続けてきたエジプトや、かつての中東政策のカナメだったサウジアラビアが、こともあろうにイランと共に加入することはバイデン政権の外交政策の失敗を意味する。

どちらが当選しても、今回の米大統領選が国際政治に大きな影響を与えることは確実だと言っていいだろう。

参照:イスラエルの命運と米大統領選


トランプはまた、「イラン攻撃の目的は石油」だとも発言した。米国は天然ガスと共に、石油も世界一の産出国だが、米国産原油はガソリンなどに適した軽質油だ。一方、イランはディーゼルに適した重質油で、ベネズエラはそれよりも重質だ。ディーゼルはトラック輸送の必需品だが、米国では現在プレミアム・ガソリンも高くなっている。

ちなみに、2025年時点の原油確認埋蔵量の世界一はベネズエラの3030億バレル、2位がサウジアラビアの2670億バレル、3位がイランで2090億バレルだ。米国は810億バレルでしかない。

トランプが1位のベネズエラを抑え、3位のイランを攻撃したことを鑑みれば、2位のサウジアラビアも油断できないとは言えないだろうか?

 

 

 

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