「トビラを開ける前に勝負を決めろ」

プロギャンブラー
新井乃武喜(あらいのぶき)
文: 林 知之
林投資研究所『研究部会報』2013年11月号掲載
第4回からの続き……
5.「どうしたいんだ」という自分の答え
──卒業旅行の時、「ゴール(目標)設定が必要だと考えた」とのことでした。でも日常では、あいまいになってしまうケースが多いと思います。
トレードもギャンブルも“もろにカネ”のことなので、なんとなく「勝ちたい」みたいになりがちです。でも「たくさん勝つほうがいい」とか「あればあるほどいい」では、具体的な成功の映像になりません。ですから、まずは「どうしたいのか」という自分の望みを明確にすることだと思います。
かなり派手な例ですが、「勝ち続けて100万円を3年で1億円にする」といった明確なゴールがないと始まりません。その成功している映像があれば具体的な方法、つまりプランが生まれます。100万円を1億円というのは、元手を100倍にするということです。同じ期間で100万円を200万円、つまり2倍にするのに対して50倍高いゴールなので、難易度は50の2乗で2,500倍になると僕は考えます。すると、それだけリスクの高いゴールを実現するためには、いったいどんなプランがあり得るのか、となるわけです。
ただ「勝ちたい」「儲けたい」だと、最初から自分の答えがないわけですから、誰かが何かを教えようとしても物理的にムリだと思います。林さんのところにも「どれを買えばいいですか?」って人が来るのでしょうが、たぶん返事を工夫することになりますよね。
──まずは、「体感する」ことを提案します。マーケットの価格が時間の経過の中でどう動いていくのかを、チャートにして眺めてみるということです。
おお、「見」(けん)ですね!
──それから、一定の準備をしたあとは実践です。実際に資金を動かしてみないとわからないことがたくさんあります。シミュレーションを繰り返しても、臨場感がゼロですから。
同感です。僕も、「1円でもいいから賭けろ」と言います。おカネがかかっていないと、人間は真剣になりません。机の上で理論を考えて「勝った、負けた、ほほお」なんてやっていても、時間のムダでしかありません。
いま住んでいる都内のシェアハウスで、「ダイエット部」というのを作ったんです。みんなで目標を決めてダイエットに励むのですが、負けたら10時間労働とか、住人が出し合っている運営費の負担が増えるとか、そういう罰則を設けています。勝ち負けに対して、本当に真剣になりますよね。
──でも実際には、“おカネ”をどの程度まで意識するのかが問題だと思います。真剣になることは必要ですが、決断の際に1万円札を思い浮かべていたら萎縮しちゃいますから。
トップギャンブラーの言葉で、「おカネだと思ったら負ける」というのがあります。「ベンツ1台分負けた」なんて言葉を頭の中に浮かべてしまったら、残りのギャンブラー人生はずっと負け組だよって。
ほかにも、「ギャンブルとしてではなく、ビジネスとしてやれ。そうでないなら、オレがつぶすぞ」なんていうのもありました。マインドセット、心の持ちようですね。
──トレードでもギャンブルでも、行動し始めたあとはおカネを意識したらバランスが悪くなるんでしょうね。
僕も、ふだん使うおカネとギャンブルの際に賭けるおカネを、完全に分離して考えます。日常は1万円の買い物なんてあまりしませんし、ベガスにいるときも1カ月で8万円くらいしか使いません。でもギャンブルの場では、確率と自分の戦略に応じて100ドル(約1万円)単位のチップをポンッと出すことができます。ビジネスの場での“数字”の問題として処理できるわけです。
──ギャンブルの場合は目の前の相手との駆け引きもあるので、難しいように感じます。
ポーカーで手がない、つまり手持ちの札に何の役(やく)もない、いわゆる“ブタ”の状態で勝ったことがあります。相手にワンペアでもあれば僕の負けなのですが、相手もブタだと読んで勝負に出たんです。
ブタ同士だった場合、最も強いエースが手札にあるほうが勝つのですが、その時はエースを1枚持っていたんです。だから相手もブタならば勝てるという状況だったわけですが、まずは自分の手がブタなんですから根本的に分の悪い勝負ですよね。でも少し前に、その相手がハッタリをしようとしてやめた時があったんです。その流れから、「今あらためて、ハッタリをやりたいんだ」と読んだので、すでに場に出した賭け金をあきらめて勝負を降りるのではなく、相手の要求に応じて上乗せしたのです。
観察によって確率的に勝てるという計算があり、それがうまく当たったということなのですが、そういうときにも数字で割り切って行動します。ビジネスですから。
──トレードも他人との競争ですが、ふだんの作業としては「買うか買わないか」みたいな選択の問題として片づけます。それが勘違いを生むところでもあり、トレードをシンプルにしている特徴でもあると思うのです。
ギャンブルにも、そういうとらえ方というか、同じ要素があると思いますよ。先日、「インターネットのギャンブルに挑戦してほしい」というオファーがあったんです。インターネットを通じてポーカーをやるので、相手の顔が全く見えないわけです。同じとはいえないかもしれませんが、ふつうのポーカーよりはトレードに近いんじゃないでしょうか。
その時も、いつも通りにゲームを進めました。「結局は自分との戦い」だと認識して、自分のやり方の中で“勝ち方”を見つけるしかないと思ったのです。
常に、どういう流れでどう行動するのかとシンプルにまとめておかないといけません。でも、時間軸は外せません。どれくらいのヨコ幅(時間)でいくら勝つのかと時間軸で考えることで、自分の行動をコントロールできるようになるはずです。
──トレードでは事前に考えますし、ひとつのトレードが終わったら次のトレードまでじっくりと考えたりすることも重要です。でもそれは、いざというときに一瞬で適切な判断をしたいからです。
僕も、わずか2分の勝負について、あとで3、4時間も考えることがあります。勝負の場ではポンッと行動してしまうしかないのですが、分析する時間は大切です。あのプレーは正しかったのか間違っていたのか、あのプロだったらどうしただろうと、いろいろな角度から考えるんです。
──ギャンブルもトレードも自分との戦い、なんてまとめ方は乱暴ですかね?
そうでもないと思います。多くの人が口では「儲けたい」「勝ちたい」って言いますが、意外と努力していません。だから、他人に勝つのって割と楽なのかもしれないんです。
それよりも、自分自身のことを考えて自分の答えを持つというイメージが重要ではないかと。僕はいつも、「先月の自分に勝つ」という考えを軸に行動するよう努めています。
──先月の自分に勝つ、ですか?
そうです。例えば今、学生が集まるイベントの講演を頼まれる機会が月に1回くらいあるのですが、「今回は、前回を上回るトークをしないとダメだ」って考えます。ボランティアで来てほしいという申し出でも、全く同じように考えています。
もちろんギャンブルでも何でもすべて、同じように考えていきます。
<第6回(最終回)につづく>
このインタビューは2013年12月11日に林知之が行い、林投資研究所が発行する『研究部会報』2013年11月号に掲載したものです。
プロギャンブラーのぶき(新井乃武喜)
15年間カジノに勝ち続けたお金で、世界82カ国を旅し続ける。震災後、被災地のボランティアのために一時帰国したところ、「ギャンブルの勝ち方が金融トレードに通じる」と評判になり、投資関係者からのトーク依頼や執筆の依頼が激増、現在も日本にステイ中。