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☆理念と政治
個人が2人寄ると、そこから政治が始まるとする政治学者がいる。他人でも友人でも兄弟でも親子でも、人間の複数形は政治の始まりだと言うのだ。
確かに、座る位置、冷暖房の温度、食事の時間、歩く速度、誰でも常に他の個人に合わせて生きている。お互いが自分の都合を主張すること、あるいは譲り合うことが、政治の始まりだ。
そんな個人が集まって組織となり、国となり、外国と政治を行うようになる。このことは、組織は個人の集まりに合わせる必要があり、国は国民に合わせる必要があり、どの国も他国に合わせる必要があることを示している。
これは同時に、自分の思い通りにいかないからと、同じ国の一部の国民が他の国民を処罰したり、一部の国が他国を制裁したりするのは、政治というより暴力で、反社会的であることを意味している。
一国の理念や主張がどのようなものであっても、他国が抗議や説得でなく脅しや制裁で向かうのは、政治というより暴力だ。反社会的な行為なのだ。
とはいえ、個人の集まりから国の集まりまで、力のある方がない方に対し「言うことを聞け」と圧力をかけるのが常であるのも事実だ。そうした暴力は歴史上でも現在でも常に見られているが、暴力で向かっても勝てないとなれば、どこまでも政治力で向かうしかないと言えるだろう。
国であれば、政権担当者の理念や主張がどうであれ、全国民を巻き込むのだから、より強く政治力を発揮する必要があるのではないか。
政治的な解決を捨て、暴力と暴力が衝突した例の1つがウクライナだ。親ロ政権の腐敗、2014年の親米政権による武力クーデタ、それに続くクリミア独立宣言と東部諸州でのウクライナ系・ロシア系住民間の内戦、2022年のロシア参戦などはすべてが暴力だが、それらについては、これまでにも述べてきたので割愛する。
今回は、独立国同士という、個人の集まりと個人の集まり同士の理念と政治について考える。
ウクライナを戦闘面で支援しようと、外国人が志願兵として入国する動きが相次いでいる。日本人でも「ロシアへの怒り」に駆られて参加したという人々がいる。
私は日本と米英のメディアにしか接していないが、ロシアへの怒りに繋がるような報道は、日本、米国、英国の順に多い。例えば、「したたかなプーチン」といった表現の報道はよく見られるが、「したたかなゼレンスキー」という表現は目にしたことがない。
ウクライナで外国人たちがロシア人との戦闘を選んでいる一方で、ウクライナを離れて日本に来たウクライナ人たちがいる。私はその行為を支持し、今後の活躍を期待している。
ウクライナ出身の新大関安青錦は、初優勝時のインタビューで、「やってきてよかった。自分の選んだ道に間違いはなかった」と述べた。ウクライナで大学進学を考えていた時期、ロシアの軍事侵攻を受けた。徴兵対象となり、出国が認められなくなる時期が目前だった、22年4月に来日。同年12月、安治川部屋の研修生になり、翌年9月に初土俵を踏んだ。
同力士には頑張って貰いたい。一方、当然だが同年代のウクライナ人の中には、参戦の道を選んだ若者たちもいる。少し長いが、以下にロイターの記事を全文引用する。
(引用ここから、URLまで)
パブロ・ブロシュコフさん(20)は今年3月、祖国を守り、妻と生まれたばかりの娘のために家を買う資金を得るという希望を胸に、ウクライナ軍に入隊した。
3カ月後、夢は打ち砕かれた。ブロシュコフさんは重傷を負い、戦場に横たわっていた。「自分が木っ端みじんになる瞬間だと覚悟した」とロイターの取材に明かした。「死は怖くなかった。妻と子どもに二度と会えないことが恐ろしかった」
約100万人の兵士を抱えるウクライナ軍は今年、年齢層が上がり疲弊している軍に新たな風を吹き込むため、全国の若者を対象に兵役募集を行った。高額報酬や特典に引かれ、18-24歳の若者およそ数百人が最前線で戦うことを志願した。
ウクライナ軍は東部での激しい消耗戦でロシア軍に徐々に領土を奪われつつあり、指揮官らはその主な要因が兵士不足にあると考えている。こうした緊迫感は、和平案を巡って米国と交渉を続けるウクライナ政府にも圧力をかけている。
ロイターは春の軍事訓練キャンプで戦闘の特訓を受けて前線に配備された数十人の新兵のうち、ブロシュコフさんら11人の行方をたどった。
この11人の中で、今も戦場に残る人はいない。兵士や親族への取材、政府の記録によると、4人は負傷、3人は行方不明となった。2人が「AWOL(許可なく軍から離脱)」し、1人は病気を発症、1人は自殺したという。
新兵の運命は、ウクライナがロシアとの戦闘の中で直面している苦境の一端を映し出しているかもしれない。
ロイターは春の軍事訓練キャンプに参加した他の新兵と連絡を取ることができず、取材した11人の事例がウクライナ軍全体の現状を反映しているかどうかは判断できない。
ウクライナ軍と、新兵11人が所属していた第28冬季行軍・独立機械化旅団は、この記事に対するコメントの要請に応じなかった。
ブロシュコフさんは6月、死に直面した。ドネツク州東部の戦場で両脚を撃たれたブロシュコフさんは、凍りついたように横たわっていた。数メートル上空で爆弾を投下しようと準備するロシアの無人機(ドローン)を目にし、最悪の事態を考えた。このドローンは攻撃に及ぶ前に仲間の手で撃ち落された。ブロシュコフさんは生き延びた。
だが、ブロシュコフさんの親友エフェン・ユシチェンコさん(25)は、7月中旬に戦地に戻って以降、行方不明となっている。きょうだいのアリーナさんはユシチェンコさんの身に何が起きたのか、情報を求め続けている。
「彼は死んだと多くの人が口をそろえる。死んだか、あるいは捕虜としてとらわれていると」とアリーナさんは語った。彼女はキーウの独立広場で10月下旬に開かれた、行方不明の軍人への関心を呼びかける集会に参加していた。「私は最後の瞬間まであきらめない」
ウクライナ内務省は、ユシチェンコさんとボリス・ニクさん(20)、イリア・コジクさん(22)の3人を一団の行方不明者として挙げている。
「(ユシチェンコさんと)一緒に行動していた方が良かったかもしれないと思うことがある」。ブロシュコフさんは家族とともに療養している南部オデーサのアパートで、親友についてこう語った。「共に戦い、共に倒れる」とブロシュコフさんはつぶやいた。
ドネツク州ボルノバハで兄弟が殺され、ロシアの占領から逃れて入隊したユーリイ・ボブリシェフさん(18)も、もう戦地にはいない。ボブリシェフさんは、現在暮らしている国を明かさずにロイターの電話取材に応じた。ウクライナ軍への復帰を考えているが、指揮官との不和があったため以前とは異なる旅団に入りたいと明かした。「契約書にサインしたことを後悔している。ボーナスを稼げるかもしれないと思ったが、それが裏目に出た」
若者向けの兵役募集は2月に開始された。ウクライナ軍の兵力はロシア軍に大きく劣り、焦燥感が表れていた。志願者には最高2900ドル相当の月給と2万4000ドルのボーナス、無利子の住宅ローンが保証された。
防衛能力に詳しい上級外交官によると、ウクライナ軍の平均年齢は47歳だという。2022年のロシアの全面侵攻以来、当初は27歳以上の男性全員に入隊が義務付けられていた。戦後ウクライナの将来にとって重要な若い世代が犠牲にならないようにという当局の考えに基づいていた。この年齢制限は昨年、25歳に引き下げられた。
ウクライナのシンクタンク「ラズムコフ・センター」で外交政策・国際安全保障を担当するオレクシイ・メルニク氏は「ウクライナ軍は今、人員に関する致命的な問題を抱えている」と指摘した。
ブロシュコフさんは入隊後、訓練キャンプでユシチェンコさんのほか、軍のコールサインだけを明かした元レストラン従業員「クズマ」さん(23)ともすぐに打ち解けた。
春の訓練期間はあっという間に過ぎた。接近戦訓練、ドローンシミュレーション、身体訓練、心理的準備、睡眠、その繰り返しだ。実戦経験が豊富な教官から、個人的な欲望を捨て、1つの戦闘部隊として団結するという信念を叩き込まれた。
若い兵士らは前線への配備が近づくにつれ、不満を口にしなくなった。疑念を持つことなく命令に従うことを学んだ。「命令を受けたら実行するのみだ」とブロシュコフさんは語った。最初の出撃命令が下されたのは6月中旬、荒天の一日だった。
クズマさんは最初に配属された新兵の一人だった。すぐにロシア軍の無人機による攻撃を受け、死の危険にさらされたという。
この攻撃でクズマさんは腹部に重傷を負った。助けを求めて叫ぼうにも肺に煙が充満し、かすれたささやき声しか出なかった。2人の仲間に塹壕(ざんごう)へと引きずり込まれた。今も、短期間従軍した際の悪夢に悩まされていると身震いしながら語った。「あの臭い、火薬と遺体の臭いだ」
ブロシュコフさんとクズマさんが次に顔を合わせたのは、オデーサの病院だった。ブロシュコフさんは車椅子なしには移動できず、クズマさんの胴体前面には大きな縫合の痕が残った。「18-24歳の傷痍軍人2人だ」とブロシュコフさんは皮肉交じりに言った。
ブロシュコフさんは、ロイターが特定した11人の新兵グループのうち、同じく戦闘で負傷したイワン・ストロジュクさんら数人とも連絡を取り合っている。
新兵2人が他の新兵との会話を引用し、同じグループの1人が自殺したと述べた。ロイターは遺体の写真などの文書から、この証言と同姓同名の人物が自殺していたことを確認した。ドネツク州警察は、この自殺に関するコメント要請に応じなかった。
ブロシュコフさんは、全身を弱らせるほどの足の痛みと悪夢にうなされながらも回復しつつある。後悔はほとんどないと言う。「私は20歳だ。まだ本当の意味では人生を見ていないが、それなりの経験はした。もし、もう一度やれと言われたらやるだろう」
ブロシュコフさんは戦争が自宅や家族に及ばないために前線に向かうという決意を貫いた。「責任あるウクライナ市民が、すべきことをしたまでだ」
妻のクリスティーナさん(19)は、従軍経験が夫を変えたと語る。「彼には辛いことだ。軍の仲間ほぼ全員が姿を消した」。「この契約はしない方がよかった。それほど多くの若者たち、18歳の子どもたちが亡くなった。彼らにはまだ学び、成長する必要があった」
参照:アングル:「高額報酬に引かれ志願」、若きウクライナ兵を襲う後悔と悪夢
日本でも、私の父の世代は経験したが、これが戦争の現実だ。
一方、11月中旬、ウクライナ全土で約70カ所の住居が捜索され、5人が拘束された。ゼレンスキー氏が大統領となる立役者の1人であった、制作会社の共同創業者で実業家のミンディッチ氏が、ウクライナ国営原子力会社エネルゴアトムを通じて1億ドルを横領した「犯罪組織」の中心人物だったとして正式に起訴された。
同氏は国外に逃亡したが、公表された証拠には、ミンディッチ氏の深夜の逃走や、容疑者らが大量の現金をどう運ぶべきかを話し合う音声記録などが含まれている。「家宅捜索が事前に知らされていた」との疑惑も持ち上がった。
また、その後ゼレンスキー氏は、最側近のイエルマーク大統領府長官が辞表を提出したと表明した。事実上の解任となる。国営原子力企業を巡る大型汚職事件を巡り、与野党から更迭を求める声が高まっていた。
2014年の親米政権は、親ロ政権の腐敗に怒る国民が米国の後ろ盾を得て誕生した。そして、ウクライナは着々と反ロシア政策を推し進め、NATO加盟というロシアと軍事的衝突をも辞さない決断を露にした。政権担当者らは米国やNATOの支援があれば、暴力対暴力でも怖くないと見なしたのだろう。
しかし、親米政権でも腐敗はやまず、利権は親ロから親米に移っただけだった。そして、ゼレンスキー氏は親米政権でもまん延する汚職と不正を終わらせるという公約を掲げて権力の座に就いた。とはいえ、そのゼレンスキー政権内部でも汚職と不正が相次ぎ、これまでにも何人も閣僚たちが更迭されている。
一方、頼みの米国やNATO諸国は武器と資金は援助するが、決して兵員は送らない。それどころか、ロシアと直接衝突の恐れがあるとの理由でウクライナをNATOにも入れず、腐敗を理由にEUにも入れていない。
ゼレンスキー氏は「米国に利用された」と述べたが、反対派を抑えてロシアとの対決を選んだ同氏の決断がウクライナを、その国民を苦境に陥れたことは確実だ。侵攻以前からプーチン氏は同氏をヒットラー呼ばわりし、モスクワ侵攻が繰り返される恐れがあると公言していたのだから。ウクライナがNATOに加盟すれば、その危惧が現実化する懸念があったのだ。
ブロシュコフさん(20)は戦争が自宅や家族に及ばないために前線に向かうという決意を貫いた。「責任あるウクライナ市民が、すべきことをしたまでだ」と、述べた。
しかし、これが果たして、本当にウクライナのための、家族のための戦争だと言えるのだろうか?
一方、西側諸国はロシアの脅威を煽ることで、開戦準備を進めている。
英国とノルウェーが防衛協定を結び、海洋でのロシアの脅威に対抗して共同艦隊を編成する。
ドイツは18歳になる男子全員に適性検査を義務付け、志願兵には初任給として月2600ユーロを支給する。ロシアの脅威を念頭に国防力の強化へ改革に乗り出す。
フランスは18ー19歳の男女を対象とした新たな志願制の兵役を導入する。2026年夏から開始し、10年後に5万人の動員を目指す。ロシアの脅威に対応し、仏軍の人員を強化する。
クロアチア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンなどでも、女性を含めた徴兵制に前向きだ。徴兵制に反対する若者でさえ、ロシアの脅威を認めているとされる。以下の記事では、日本にもロシア警戒を呼びかけている。
参照:欧州の兵役制度、女性も募る ロシアの脅威「平和な夏は今年が最後」
戦争拡大への準備はロシア側にも見られている。ロシアも兵員不足で、借金の棒引きなど、「高額報酬に引かれ志願」する若者たちを募っている。
また、戦争を嫌うウクライナ人たちがいるように、ロシアでも戦争批判が起きている。
参照:戦争嫌うロシア人、アルゼンチンに殺到 「白い避難所」にミレイ政権の壁
参照:プーチン氏が恐れる帰還兵 「エリート」扱い就職支援、批判封じ込め
西側諸国はロシアの脅威を煽っているが、私見ではロシアに西欧を侵略する能力などない。ロシアはロシア系住民が多数を占め、内戦支援から始まったウクライナ東部ですら何年も手こずっているのだ。ここからどうしてウクライナ全土を制圧し、更に西側に拡大できるというのか?
ロシアの脅威よりも、むしろロシアの危機感の方が合理的で理解しやすい。
ロシア連邦は異民族、多宗教、多言語国家だ。一方、ロシアとウクライナは同民族、同宗教で、言語も方言並みの違いでしかない。加えて、旧ソ連を共に支えた中核国だ。それがロシアを仮想敵国とするNATOに加盟することの意味は大きい。次に来るのは、ロシア連邦解体だとの懸念が生まれてもおかしくはないのだ。
その意味では、ゼレンスキー氏の選択は、政治的解決を捨て、暴力対暴力に繋がる選択だったと見ていていい。
とはいえ、ゼレンスキー氏はロシアを十分に疲弊させた。NATO拡大にも寄与した。西側諸国の再軍備化にも寄与した。ここにきてのゼレンスキー政権の腐敗摘発は、西側にとっての同氏の役目が終わったことを示唆してはいないか?
似たような状況は極東にもある。中華人民共和国は異民族、多宗教、多言語国家だ。中国と台湾は、同民族、同宗教、同言語だ。加えて、共に旧中華民国だったのだ。私は中国政府の暴力体質を好まないが、だからこそ、立場を理解して慎重に接する必要があると見ている。
政権担当者が暴力を肯定して迷惑を被るのは国民だ。暴力を肯定するだけが愛国心ではない。また、どの国でも威勢のいい、ことさら愛国心を売り物にする政治家に限って、裏で他国の勢力と繋がっていたりするものなのだ。
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・Music: La Lune Rouge (hip hop, R&B, French pops, funk, blues)
・Music: Corazon Enamorado (salsa, hip hop, reggae, R&B, samba, blues, bossa nova)
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