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☆物価と賃金の上昇がもたらすもの

日銀の植田総裁は10月3日、大阪経済4団体共催懇談会での講演で、「賃金と物価が相互に緩やかに上昇するメカニズムは基本的に今後も維持される」と述べた。同氏の発言の要点を整理する。

1、米関税政策がもたらす物価と賃金上昇の国内企業への影響については、これまでに蓄積された高水準の企業収益がある程度バッファーになる。

2、海外経済や通商政策の不透明感が高い状況が続くと、企業でコスト削減の動きが強まったり、物価上昇を賃金に反映させる動きが弱まる可能性がある。「リスクが顕在化しないかきめ細かく確認する」。

3、米経済に雇用の下振れリスクが生じている。関税によるマイナスの影響はあまりみられないが、輸入品に広く関税が課されているので、影響がいつ、どのような形で表れてくるか。

米国の企業が輸入コストの増加を負担するのであれば、企業収益の悪化が雇用・所得の下押し圧力として作用する。雇用の変調はこうした動きが表れ始めているからかもしれない。企業がコストの増加を負担しきれず、販売価格に転嫁されていけば、消費者物価が上昇し、個人消費にマイナスの影響を及ぼす。

4、国内の食料品価格を含めた物価上昇は基本的に一時的な要因が大きいが、企業の賃金・価格設定次第では、想定以上に長引く可能性もある。個人消費が下押しされ、物価上昇率を下げる方向に作用する可能性にも注意が必要。

5、実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価の中心的な見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げる。「予断を持たずに、適切に政策を判断していく」。

6、2024年から国債の買い入れ額を減らし、25年9月にはETFの売却を決めた。植田総裁は膨らんだバランスシートを適切な規模に戻していくことは大きな課題。縮小プロセスは少しずつ進んでいるが、規模が大きいだけに今後かなりの期間にわたって続く。 


こうしたところのようだ。気になるのは、国内の食料品価格を含めた物価上昇で、4、「企業の賃金・価格設定次第では、想定以上に長引く可能性もある。個人消費が下押しされ、物価上昇率を下げる方向に作用する」とあることだ。ここでは、物価上昇が長引いても困るが、下げても困るように受け取れる。

下げて困るのは、日本経済の実態が見えてしまうからだ。実際、物価上昇によって個人消費額は伸びていても、消費量は減っている。これは企業の売り上げが伸びていても、数量の伸びには繋がっていないことを意味している。成長の実態は物価高によるものなので、人員増や設備投資増の必要性がない業績の伸びなのだ。

一方で、衣食住の値上がりはすべての国民の生活を圧迫する。とはいえ、富裕層は大きなバッファーを持つので、圧迫の影響は軽微だ。

また、衣食住の値上がりを、賃上げにより補填されている度合いは、大企業ほど大きい。小企業や自営業はほとんど補填されないケースも多い。加えて、バッファーがほとんどない企業は賃上げどころか、必要な人員の確保も難しい。つまり、弱者ほど追い詰められ、貧富格差は拡大している。これは一般国民が実感しているところだろう。


同じく3日には、厚生労働省が8月の一般職業紹介状況、有効求人倍率を発表した。正社員とパートを合わせた有効求人数は前年比3.6%減の225万1623人と、26カ月連続の減少となった。パートだけでなく正社員の求人も減っているとの分析があり、「賃上げによる人件費の上昇に耐えきれず、求人を絞る動き」だとされている。

8月の民間サイトの求人指数はパート・アルバイト全体で5.3%減と、24年11月から10カ月連続でマイナスが続いている。求人に占める割合が大きい医療・福祉で8.3%減、建設は38.6%減、飲食は24.4%減と減少が目立った。正社員の求人指数でも1.3%の減少だった。

一方、賃金上昇はパート・アルバイトの時給で4.0%増と、21年4月からプラス圏にある。正社員の月給・年収は2.5%増と、比較できる18年2月以降はマイナスになった月はなく上昇が続いている。

25年の春季労使交渉での賃上げ率は連合の集計で5.25%と、33年ぶりの高さだった前年をさらに上回った。最低賃金も21年度以降、過去最大の引き上げ額が続いている。

こうした人件費の高騰に対応するため、パート・アルバイトで求人を絞ってきた企業の動きが正社員にも波及してきたと言える。

つまり、政府・日銀が期待している物価に追いつく賃金の上昇が、雇用削減につながっているのだ。

8月の有効求人倍率は前月比0.02ポイント低下の1.20倍、総務省が発表した8月の完全失業率0.3ポイント上昇の2.6%だった。


また、物価高が「基本的に一時的な要因が大きい」と言うのは、根拠に乏しい発言だ。

日本の消費者物価指数(除く生鮮食品ベース・いわゆるコアCPI)が、日銀の物価目標である前年比+2%を超えたのは 2022年4月からで、その時のコア指数は+2.1%だった。大きな要因は円安の進行、エネルギー価格の高騰による輸入物価の上昇で、総合(生鮮食品含む)指数は+2.5%だった。

物価が日銀の目標を上回ったのは2015年以来のことだった。以降は24年3月の利上げ開始後もずっと2%を超える状態が続いている。

その要因は輸入物価上昇に加え、政府・日銀の要請による賃上げなので、経済が失速でもしない限り一時的だとは言えないものだ。


一方、米国も似たような状況だ。モノが高くて買えなくなった。売買金額が増えても数量減であることが、景気減速、雇用市場の悪化を生んでいる。多くの国の状況もそれに近い。

世界的に、インフレの主因はリーマン、コロナと続いた通貨の大量供給による通貨価値の下落だと言ってよく、不動産や株式などのインフレ資産を持つ者と、持たない者との格差が広がり続けている。これは世代間格差にも繋がり、少子高齢化も促進させている。

こうした状況が各国に広がる分断や、地政学リスクの高まりの底流にある可能性が高い。その正常化には、世界的な税制改革を中心とする構造改革が必要だとみている。 

 

 

 

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