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☆「要塞国家の世界」を先行させたのは誰か?
イスラエルの歴史学者で、ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授。また、世界的ベストセラーとなった「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福」、「ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来」などの著者である、ユヴァル・ノア・ハラリ氏が「トランプ氏が描く『要塞国家の世界』、力による支配招く」と題したコラムを、日経新聞に寄稿している。
同氏が抱く危機感に関しては基本的には同感だ。とはいえ、同氏の考え方は「トランプ憎さ」が余ってしまい、どうしてそんなトランプ氏を米国人の大多数が支持しているのかを見逃している。また、「要塞国家の世界」を先行して描いてきた国家についても触れていない。
私見を述べさせて頂く前に、まずは、以下に同コラムの要点を部分引用する。過度と思われるトランプ批判や例えの部分は割愛するので、全文にご興味のある方々は日経新聞本文をお読み頂きたい。
(引用ココカラ、日経新聞URLまで)
自由主義的秩序の支持者は、世界が互いに協力すれば「ウィンウィン」の関係になれるネットワークだとみている。協力は相互に有益なことから紛争は不可避ではないと考えており、この信念には深い哲学的根拠がある。
自由主義者は、すべての人間は複数の共通する経験と関心をもっており、それが普遍的価値観や国際機関、国際法の基盤になり得ると主張する。例えば人間は病気を忌み嫌い、感染症のまん延防止に共通の関心を持っている、と。
したがって医学の知識を共有し、感染症撲滅への世界的取り組みを進め、その取り組みをまとめる世界保健機関(WHO)のような機関の設立は、すべての国・地域の恩恵になると捉える。
自由主義者は国家間の人やモノ、発想の流れを不可避な競争や搾取とみるのではなく、潜在的な相互利益という観点から理解する傾向がある。
対照的にトランプ氏の考えは、世界はゼロサムゲームで動くというもので、取引に勝者と敗者が存在する。したがって人、モノ、発想の往来は本質的に疑念の対象となる。
トランプ氏の世界観では、国際協定や国際機関、国際法は一部の国を弱体化させてほかの国を強くするための陰謀か、すべての国を弱体化させて特定の邪悪な国際的エリートだけが恩恵を受ける陰謀となる。
ではトランプ氏が望む代替案とは何か。望み通りに世界を変えられるなら、どんな世界にしたいのか――。
トランプ氏が理想とする世界は要塞国家のモザイクだ。その世界では各国は金融、軍事、文化の面だけでなく物理的にも高い壁で守られている。この発想は相互に有益な協力の可能性を放棄しているが、彼や彼と似た考えを持つポピュリスト(大衆迎合主義者)らは、そうすることが国々により安定と平和をもたらすと主張している。
当然、この考え方には重要な要素が欠落している。数千年の歴史が教えてくれるように、どの要塞国家も近隣諸国を犠牲にして自国の安全や繁栄、領土を少しでも多く確保したいと欲する。欠いているのは、普遍的価値観や国際機関、国際法無しに、対立する要塞国家同士がどう紛争を解決するのか、という点だ。
トランプ氏の解決策は単純だ。弱者は強者のいかなる要求にも従えばよいというものだ。この考え方では、紛争は弱者が現実を受け入れない場合にのみ発生する。したがって、戦争は常に弱者の責任ということになる。
対立する要塞国家同士が現実を受け入れ、取引することで衝突を回避できるというこの考え方には、明らかな問題が3つある。
第1の問題は、弱い要塞国家はすぐに強い隣国にのみ込まれ、強い隣国は単なる要塞国家から広大な帝国へと変貌していく。
第2の問題は、どの要塞国家も弱い国とみなされるわけにはいかないため、常に軍事力強化を図らなければならないという大きな圧力にさらされることだ。資源は経済開発や福祉プログラムから防衛へと振り向けられるようになる。その結果、軍拡競争が激化し、誰もが安全を感じるどころか、人々の繁栄は損なわれることになる。
第3に、トランプ氏の考え方では弱者が強者に屈服することを期待しているが、相対的な力関係を判断する明確な方法は示されていない。歴史的に何度も起きてきたように、国が誤算をした場合はどうなるのか。
米国は1965年、自国を北ベトナム(当時)よりはるかに強力だと確信し、北ベトナム政府に圧力を十分かければ妥協を迫れると考えていた。しかし、北ベトナムは米国の優位性を認めず、圧倒的な不利を乗り越えて戦争に勝利した。米国は、実際には劣勢だったことをどうやって事前に知ることができたのだろうか。
トランプ氏の考え方は目新しいものではない。自由主義的な世界秩序が台頭する前まで、数千年にわたって支配的な考え方だった。トランプ的手法は過去に何度も試されてきており、それが普通はどこに行き着くかもよく知られている。帝国の建設と戦争という終わりなきサイクルだ。
さらに悪いことに21世紀の今は互いに対立する要塞国家は戦争という脅威だけでなく、気候変動や人類の1万倍の知性を持つ人工超知能の台頭など、新たな問題にも対処しなければならない。
強固な国際協力がなければ、これら地球規模の問題への対処は不可能だ。
この状況が続けば短期的には貿易戦争と軍拡競争に加え、帝国主義の拡大を招くだろう。そして最終的な結末は、世界戦争及び生態系の崩壊、制御不能なAIとなる。
トランプ氏の考え方を擁護したい人は、この質問に答えるべきだ。普遍的価値観や拘束力を伴う国際法がない中で、どうしたら対立する要塞国家同士が経済的、領土的な紛争を平和裏に解決できるのか、という問いに。
Copyright (C) Yuval Noah Harari 2025
参照:トランプ氏が描く「要塞国家の世界」、力による支配招く
同氏による「自由主義的秩序」の見方には賛同する。トランプ米国がそれに挑戦している点でも賛同する。その点では、私はトランプ氏の考え方を擁護したいとは思わない。しかしここで欠落している重要な点は、世界の国々のすべてが自由主義的国家ではないという事実だ。
トランプ米国出現以前から、現在、世界には既に複数の「要塞国家」が存在している。その多くに対しては、自由主義的社会の方も制裁などで自らをも要塞化し封じ込めてきたが、少なくとも1カ国に対しては一方通行の自由を与えてきた。中国に対してだ。
トウ・ショーヘイ中国が社会主義体制のままで自由主義的社会に参入しようとした時、自由主義的社会は歓迎した。実利的に中国の巨大市場や安価な労働力に魅力を感じたためだ。また、自由主義的社会に参入すれば、中国が社会主義を捨て、自分たちの仲間になるという根拠なき期待もあった。
そのため、中国は「要塞国家」の体制を保ったままで、自由主義的社会で自由に振舞うことができるようになった。それだけではない。中国は新興市場国としての特権まで維持できた。資本や技術を与えられた一方で、先進国の責任からは逃れてきたのだ。
日本政府も加担した、そうした中国優遇策の効果は凄まじいもので、1997年から2020年までに米経済が2.73倍になった同時期に、中国経済は米ドル建てで20.06倍にもなった。(ちなみに日本経済は税制改悪や外圧もあり同時期0.91倍成長に留まった。)
参照:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新)
一方で、先進国の責任から逃れてきた中国の、2024年時点の二酸化炭素の排出量は世界全体の30.9%を占め、2位米国の13.5%の2倍以上になっている。トランプ米国のパリ協定離脱の背景に、こうした不公平がある。
上記コラムで話題のAIレースでも、米国の2024年までの投資総額が4710億ドルなのに対し、中国は1190億ドルながら、特許数では世界の69.7%を占め、米国の14.2%を圧倒している。こうした中国の奇跡は、中国人がそれ程優秀なためなのだろうか? 情報が一方通行であるためではないのか?
例えば、要塞国家の中国で日本の駐在員たちがスパイ容疑とやらでしばしば拘束されている一方で、自由主義的国家の日本で中国は情報を合法的に取り放題の状態にあるのだ。
日経新聞が早稲田大学と国立情報研究所の研究として報道しているところによれば、中国政府の出資を通じた企業支配力は29兆5231億ドルに及び、世界一の支配力を誇っている。2位も中国の政府機関で11兆3779億ドルだ。3位は米国のファンド、ブラックロックだが、4兆2287億ドルに過ぎない。
いかに資本主義国の巨大ファンドと言えども、国家には勝てないのだ。しかも、ブラックロックは多くの出資者からの資金を運用しているに過ぎないが、中国政府は要塞国家の思惑だけで運用できる。考え方では、中国政府は最も手強い「物言う株主」なのだ。
中国はそうした資本力を通じて、世界各国の製造業、サービス業、メディア、教育、文化などへの影響力を強めている。
つまり、中国はハラリ氏の言う「国家間の人やモノ、発想の流れを不可避な競争や搾取とみるのではなく、潜在的な相互利益という観点から理解」している社会で、自分だけは金融、軍事、文化面を含む「要塞国家」として自らを守り、一方通行の利益を享受しているのだ。1997年以降だけでも米国の7倍以上成長できたように、グローバル化の恩恵を最も受けたのが中国だ。
加えて、中国の中には都市部で暮らしながら、都市の戸籍を与えらない農民工が、2023年時点でも3億人いて、安価な労働力を提供し続けている。異民族や海外からも安価な労働力は提供されており、世界的な競争力の維持に役立っている。自由主義的社会で競争しながら、共産党独裁国家は「要塞国家」という特権を享受しているのだ。
そして、半導体や太陽光パネル、電池といった戦略的な分野に政府資金と安価な労働力とを注ぎ込んだ結果の余剰生産力でデフレを輸出し、各国の製造業を追い詰めている。
また、軍事予算や核武装でも急速に米国を追い上げている。これらは全てトランプ出現以前からのもので、トランプ米国が始めて本格的な対策を取り始めただけなのだ。
中国相手の貿易戦争に関しては、ハラリ氏などが指摘しているトランプ批判に加え、「ここまで依存してしまったので、もう中国相手には戦えない」というものがある。製造業だけでなく、資本市場でも中国は世界最大の米国債を保有し、世界企業の最大の株主にもなっている。これを例えれば、自由主義的社会は「要塞国家」に軒先を貸し、母屋を取られたような状態だ。
中国にそれができたのは、自由主義的社会が本来受け入れる社会であることと、実態は金権体質で、目先の欲にくらんだからだ。中華人民共和国は昔も今も変わらない。共産党独裁の要塞国家なのだ。
そして今までの傾向がこのまま続くならば、自由主義的社会はいずれ要塞国家に内部から飲み込まれてしまう。それをうすうす感じているのが、グローバル化から取り残された大衆迎合主義者たちで、彼らがトランプ氏を支持している。
選挙で明らかになった典型的なトランプ支持者は、白人、男性、低学歴、低所得だ。また、米GDPの全体の4割しか占めず、株式保有も限定的だが、人口と居住地域では絶対多数だ。彼らの生活は概ね既に破壊されているために、トランプ米国が自由主義的社会を破壊するとインテリ層が唱えても、自分とは無縁の絵空事に思えているのだ。トランプ陣営は彼らの支持を受け、ハリス陣営の3分の2の選挙費用で当選した。
米国や世界にとって中国相手の貿易戦争は大きな痛みを伴うかも知れない。しかし、こうした巨大要塞国家を内部に抱える自由主義・資本主義国社会は、体内に致命的に大きな癌細胞を抱えたようなものなのだ。癌を取り除くことができないのなら、痛みを伴っても、まだ犯されていない健康な細胞を守るしかない。
要塞国家の世界を描いているのはトランプ氏ではない。中国という要塞国家の癌が、米国にも転移しつつあるのだ。それでも、私は自由社会の体力、免疫力を信じている。ハラリ氏のようなインテリ層やメディアからのトランプ革命への反発の大きさを見ていて、かえってトランプ氏への期待を強めている。
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