「トビラを開ける前に勝負を決めろ」
プロギャンブラー
新井乃武喜(あらいのぶき)
文: 林 知之
林投資研究所『研究部会報』2013年11月号掲載
第3回からの続き……
4.10年続けるシゴト
──ギャンブルにおけるマネーマネジメント(資金管理)を、詳しく説明してください。
「勝つためにやる」を実行するには、マネーマネジメントが欠かせません。ちょっとしたプラスの要素があれば1年間勝つのは簡単かもしれませんが、5年後はない、10年後は絶対にあり得ないでしょう。
難しい計算は抜かして説明します。100円を賭けて勝ったら200円になる、負けたらゼロになる、という勝負で勝つ確率が51%ならば持ち金の2%ずつ賭けます。確率52%ならば4%ずつ賭けます。もちろん、50%以下の場合には賭けません。
勝率のわずかな差を、どう利用するのかが重要です。いま言った状況に100万円の資金で臨んでも、1回に10万円賭けることはありません。100万円の資金に対して2万円とか4万円と、小出しに賭け続けるのです。プロが絶好調のときでも、こういった数字が限度なんですよ。勝率52%として、100回やれば48回は確実に負けるわけですから。
100万円の資金で4万円ずつ100回賭け続け、48回負けて52回勝てば、勝ちと負けの差は4回ですから4万円×4回で16万円のプラスが生じている──勝つためのギャンブルというのは、こういう地味な作業が基本です。
──システムトレードにも、全く同じ考え方が用いられています。淡々と進めるだけなんですよね。
はい、一喜一憂することはありません。プロだから勝つのが当たり前ですし、勝たなければいけません。ちょっと勝ったからといって、「わ~い」なんて喜んでいるようではダメです。勝った要因を考えながら、すぐに次の勝負に目を向けています。それに10万円勝ったときにほかのプロが20万円勝っていたとしたら、それは「10万円勝ち損ねた」「10万円のロス」ではないかと考えて原因を追及します。場を見切れていなかったのか、勝ちを喜んでしまったからか、というように。そして、自分のスタイルではもう少しいけたとか、もっと早い段階でやめるべきだった、などと熟考していきます。
──システムトレードで休みなく張り続けるのではなく、私が実践している裁量トレードでは小さな勝てる可能性を捨て、「これは取れる!」というところだけで仕掛けることを大切にします。
ギャンブルでも、例えばポーカーのようなゲームならば同じです。僕は、「ガマン強さ」を意識していますよ。
勝てるかどうかがわからないところでは、絶対に勝負しません。林さんの言う「捨てる」ですよね。わからないときにやってばかりいると、肝心の“勝ち時”が見えなくなってしまうんです。52%勝てるという状況をすべて捨ててしまうわけではありませんが、そこでチマチマと勝つことだけを考えずに、60%勝てるチャンスを見つけて勝負にいく気持ちは重要です。
──トレードもギャンブルも簡単に参加できるので、つい準備不足でスタートしてしまう人が多いと思います。株ならば、面白そうな銘柄を見つけたら買って、買ったあとで心配したり調べ始めたりするケースがよくあります。
「見」(けん)という言葉があります。もともと何かのギャンブル用語だと思いますが、「場の流れを見る」という意味です。
勝負に入る前に場の流れを読んで、どうすれば勝てるのかを考えるのです。カジノに行けば誰かが勝負していますから、そこに加わる前に彼らの勝負を、彼らよりも真剣に、全くまばたきもしないくらいの気持ちで細かい流れまで観察するのです。これが「見」です。
トレードならば、チャートを見て戦略を考える作業ですかね。
──場を読む前に、自分のことを考えるのも重要です。自分の意思で休むことができるので、例えば体調が悪かったら、チャンスだと思っても手を出さないとか。
ギャンブルで面白い例は、失恋したときですね。勝率80%を誇るようなスゴ腕のプロであっても、失恋したときには勝率20%の大カモになってしまうんです。そんなときに勝負したらいけないのですが、彼女がいなくなったからほかにやることがない、今まで勝っていた、だから勝負しにカジノに来たなんてことになれば、状況を知った人間たちがハイエナのように群がってつぶしにかかりますね。心配事はちゃんと片づけておかないと、絶対に勝てません。
僕がベテランのプロによく言われたのは、睡眠のことです。「ノブ、ちゃんと寝てるか?」って。寝不足の状態で勝負なんてしたら、始める前に負けが決まっている状態です。そんなふうに自分で敗因をつくってしまうなんて、何が何でも避けなければならないことですからね。シゴトとしてのギャンブルなので、休むのも寝るのもシゴトの一部なんです。
──ギャンブルもトレードも、自分の意思で区切りをつけなければなりません。勝っても負けても、どこかで区切って休みますよね。トレードでは、意図的に休むことが大切だと私は考えていますが。
ギャンブルでいうところの、勝負の“やめ時”ですね。僕の場合は、良い波が来たところでやめて、メシを食いに行ったりします。集中力を高めるために、勝負の前に食事を取りませんから。
例えば10時間以上負けてて最後の30分で勝ったら、あるいは最初の30分でポンポンとうまくいったら、そこでいったん休んでしまうんです。
──「良い流れが来た。よし、ここから」とはならないのですか?
そう考えるプロもいますが、僕は違います。感情的に「よし!」と思っても、それで実際の勝率が上がったとは限りません。過信した結果、次に負けて勝ち分を吐き出してしまったら勝つための行動ではありませんから、そんな流れになってしまうことを嫌ってリスタートします。
プロが100人いたら、やめ時も100通りあるんです。ただし、それぞれのプロが事前に決めていますよね。その場の気分で決めるのではなく、確実に勝つための戦略として決めているんです。
でも僕は、そのやめ時を常に考え直すことも必要だと思います。自分の手法や経験値などいろいろな要素がありますが、それを踏まえて「このやめ時で正しいのか?」と自分の選択を疑っていく姿勢です。プロギャンブラーとして15年間やっていますが、毎日行うべき大切な作業だと思っています。
──感情は重要なので、私はポジティブとネガティブの使い分けを考えます。最初に計画を立てる段階、具体的な戦略を考える段階、いざ実行する段階と時間的に分け、ポジティブとネガティブのどちらを強めるか、と整理しています。そのへんは、どうでしょう?
僕は現実の確率とリンクさせて、「勝率60%ならば60%ポジティブに」というようなイメージです。でも、ポジティブとネガティブの両面から見ていってトータルで考えていくのが、本当の勝ち方だと思いますね。
──負けているときに感情がネガティブになり過ぎるからやめる、という考え方はありますか?
それは、ありませんね。負けているときは逆に集中できますので、続けることが多いのです。
時間とか結果よりも、集中できているかどうかが大きなポイントかもしれません。
新井氏は、「勝負の前にはメシを食わない」と言った。トーク番組に参加してくれた時も“大切な場”という意味で「勝負だ」と、夜7時半から9時過ぎまでの生放送にもかかわらず食事をしないで現場に来た。一匹狼だから自分を大切にするのは当然だとしても、周囲の人も大切にして丁寧に扱う。
ギャンブルとトレードの相違点として先ほど、「直接対決かどうか」という観点を示した。そして、トレードでは甘えてしまう部分があるかもしれないと述べた。その甘えかもしれないと感じたのは新井氏が説明した“やめ時”、トレードにおける「手仕舞い」に対する考え方だ。利食いでも損切りでも、手仕舞いのタイミングは自分で決める。そのタイミングによって損益が大きく変わるのだが、私たちトレーダーは、新井氏が「毎日行うべきだ」と強調するほど真剣にトレードと向き合っているのだろうかということだ。
また、人の扱い方という観点でも考えてみた。ギャンブラーというのは縁遠い存在だから、どうしてもドラマや映画の誇張された描かれ方から“冷酷非道”などといった極端なイメージを先行させてしまうが、少なくとも新井氏はとても人に優しい人物である。翻って、自分を含めたマーケット関連の人間を見ると、価格とカネしか見ていない人がいたり、多くの人にそんな要素があるような気もしてくる。
残念ながら現在の日本にはカジノがないが、新井氏のような人を師匠としてギャンブルを学ぶことができたら、トレーダーとしての強さが増すのではないかと感じてしまった。
<第5回につづく>
このインタビューは2013年12月11日に林知之が行い、林投資研究所が発行する『研究部会報』2013年11月号に掲載したものです。
プロギャンブラーのぶき(新井乃武喜)
15年間カジノに勝ち続けたお金で、世界82カ国を旅し続ける。震災後、被災地のボランティアのために一時帰国したところ、「ギャンブルの勝ち方が金融トレードに通じる」と評判になり、投資関係者からのトーク依頼や執筆の依頼が激増、現在も日本にステイ中。
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