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☆消費税が安定財源だという「嘘」
日本の新首相に石破茂元自民党幹事長第28代党総裁がなることが決まった。発言にブレの少ない論客の同氏には大いに期待したいところだが、日本経済再生に最も重要だと思われる一点に関しては、「過ち」を認め前言を覆して頂きたいと思っている。
「消費税は撤廃も減税もしない。安定財源だから」というデータに基づかない「誤解」、あるいは「嘘」に関してだ。
消費税に関しては繰り返し述べてきているので、ここでは2021年春に上梓した拙著から冒頭の2項をそのまま引用する。税収に関しての図表は財務省のページから最新のものを見ることができるので省略する。
参照:日本の財政関係資料
(引用ここから、URLまで)
第一章:日本を破壊した税制
1、税率を上げても増えない税収
図01(省略):消費税と総税収(出所:財務省の資料に消費税などを挿入)
図01は財務省のホームページにある「我が国財政について」からのものに、消費税率と長期景気回復期とを書き込んだものだ。赤色の折れ線グラフが1975年度(昭和50年度)からの歳出(政府の支出)の推移、青色の折れ線グラフが税収の推移、下の棒グラフがその年度の公債(国債)発行額だ。特例とあるのは赤字国債の意味で、財政均衡が建前上、赤字は特例とされている。
読者の方々は、日本の税収のピークがいつかご存知だろうか? 記録の上では2018年度(平成30年度)で、60.4兆円だ。これはアベノミクスの成果だと言えるが、マイナス金利政策、経済規模を超える資金供給、財政ファイナンス(通貨を製造できる中央銀行が国債を買うことで、実質的に政府が通貨を製造し財政規律の歯止めをなくすこと。日本では法律違反)、中央銀行による民間企業の株式保有などといった、これまでなら禁じ手と見なされていたものを総動員して達成したものだ。後述するが、それらは継続不可能で、のみならず次世代に過大な負担を残すことになった。にもかかわらず、その効果はほんの一時的なものでしかなかったのだ。
その前の税収ピークは1990年度(平成2年度)の60.1兆円で、過去最大を更新するのに何と28年もかけ、それでもほぼ元の水準に戻ったに過ぎない。その間の税収は一時38.7兆円にまで落ち込むことがあった。
税収を青色の実線で表示した図01では、2019年度が60.2兆円、2020年度が63.5兆円とされているが、2019年度の税収は既に58.4兆円だったと発表され、2020年度はそれを更に下回り55.1兆円となる見通しとなった。つまり、日本の税収が60兆円を超えたのは、1990年度と2018年度の2回きりで、このままではそれがダブルトップとなってしまう可能性が高いと言える。
一方、赤色の実線で表示した歳出は2020年度が175.7兆円となる見通しで、赤字をファイナンスする新規国債発行額は112.6兆円になると言われている。つまり、誰が見ても日本財政の置かれた状況は危機的だと分かるはずだ。
この歳出の急増はコロナ対策で使われたもので、個人への一律10万円支給やGo To、アベノマスクなどもここからの支出に含まれる。これらは前向きの経済発展のための支出というより、経済活動を止めた損失の穴埋めとしての様相が強く、今後の税収増には繋がらない可能性が高い。つまり、この110兆円を超える赤字幅を埋める見通しは立っていない。
日本政府は当初コロナ対策は短期決戦だとしたために、国家経済への損害をより少なく抑えることにまでは配慮が及ばす、後手にまわって損失補填を行った。政府の政策によって国民に損失を与えたので、国民の生活を守るためにはこうした支出はやむを得ない。とはいえ、国民の健康を今のコロナ禍からだけでなく、長期的に守る社会保障制度の維持を含む国家経営の観点からは、このように経済活動を止めたこと自体が問題なのだ。
とはいえ、それ以上の大問題はいざなみ景気やアベノミクスをもってしても税収が増えて来なかったことだ。これは、この30年間の日本財政も基本的には同じで、限られた税収をやり繰りするだけではしのぎ切れず、結局は赤字を積み重ねてきたことを意味している。図01の下の棒グラフは国債発行額で、その年度に国が新たに借金した金額だ。概ね青赤両線に挟まれた単年度の赤字幅と同額だ。
図01の青色の実線を見て頂きたい。消費税導入後、3回にわたって税率を引上げてきたのだが、税収は一向に増えないどころか、減っているようにも見える。このことは、将来の消費増税が税収増につながる見通しは限りなく乏しく、むしろ税収減に繋がる可能性が高いと言えるのだ。
歳出の内訳は後述するが、図01の1990年度までの推移を見ても分かるように、赤色の実線で示された歳出が増えても、青色の実線の税収が追いかけて増えていれば、そのギャップは広がらず、財政赤字は管理下に置かれた状態だと見なすことができる。ところが、1990年度を境に、歳出の伸びとは裏腹に、税収が減り始めるのだ。1989年度に消費税を導入したにもかかわらず、税収は減ったのだ。
総税収の減少は、消費税率を5%に引上げた1997年度以降も繰り返される。これでは、消費増税をしたにもかかわらず税収減となったのではなく、消費増税をしたからこそ税収が減ったと考えた方が合理的だ。
これでも日本の政治家たちは、「社会保障の財源確保には消費増税が必要だ」というのだろうか? 税収減となる確率が高いのに、社会保障の財源になると考えるのはおかしいとは思わないのだろうか?
2、消費税収は成長率、所得税収、法人税収とトレードオフ
図02(省略):税収と名目GDP成長率(出所:財務省と内閣府の資料から作成)
図02の上部からは、1987年度からの日本の総税収の推移(青色の棒グラフ)と、所得税収の推移(赤色の折れ線グラフ)、法人税収の推移(青点線の折れ線グラフ)、消費税収の推移(黒色の折れ線グラフ)が見て取れる。下部は同期間の名目GDP(国内総生産)の前年度比での推移だ。赤い矢印は消費税の導入時期と税率。加えて、長期景気拡大期も記入した。
消費税を導入し、税率を上げ続けたのに、かえって税収が減ったのは何故か? 図02の税収の内訳と、経済成長率の推移から答えが見えないだろうか?
消費税を導入したその年に、図02では青色の点線で表示した法人税収がピークをつけ、現状は半分近くにまで減少している。導入の2年後には赤線表示の所得税収がピークをつけ、現状は3分の2もない。それらが急減したために、黒線表示の消費税という新たな財源を得たにもかかわらず、棒グラフに見る総税収が消費税導入後の1年後にピークを付けたのだ。
図02の下のグラフの赤色の棒グラフが名目GDP(経済規模)の前年度比での成長だ。消費税導入後しばらくはバブル経済の勢いが持続するが、1990年度以降は明らかに減速を始める。この時期はバブル崩壊の時期だが、増税は景気過熱を抑える手段でもあるので、消費税導入という追加の引締め効果もあって見事に景気を殺せたとも見なすことができる。
そして、消費税率を5%に引上げた1997年度からは、日本経済はマイナス成長となる。この時期にはアジア通貨危機が起きたのだが、当該諸国が回復した後も、何故か日本だけは低迷する。というより、日本経済は増税とアジア通貨危機という内憂外患の状態となったのだ。
その年には日本債券信用銀行、北海道拓殖銀行、山一証券など多くの金融機関が破綻、その後自殺者が急増することになったことを鑑みれば、この時期の消費増税は施政者として有り得ない政策だったことが分かる。戦後最長と謳われている「いざなみ景気」は、戦後の日本経済が迎えたこうした最悪期からゆっくりと時間をかけて回復したものだ。グラフに見られるように、景気拡大の期間が長い事だけを自慢する意味が私には分からない。
その後のアベノミクスではある時期まで確かに経済成長するが、前述のように多くの「禁じ手」をつかったために、今後の世代に多くの課題を残すことになった。また、そこまでして得た成長すら元の木阿弥となったことは後述する。
消費税収は黒色の実線で表示されている。消費税の謳い文句は「安定財源」だ。図02で見ても分かるように、導入後は確かに安定的に税収を増やし、今では日本政府の最大の財源になった。
とはいえ、安定財源という意味は、経済が縮小していく中でも着実に天引きすることで、家計や企業の大きな負担となってきたことを表している。そして、そのことがデフレを長引かせることにもなったことを示唆している。
また安定財源は、景気拡大期にも税収が安定していることも意味している。景気が拡大してもそれほど税収は増えず、図02に見られるように税率を引上げた時にだけ、目立って消費税収が増えるのだ。
この図02でよく分かるのは、消費税収と引き換えに、所得税収と法人税収が減少したために、日本の総税収が減ったことだ。税収減の最も大きな要因は、消費税が景気後退に繋がるためだ。つまり、消費税と経済成長とは、彼方立てれば此方が立たぬ、トレードオフの関係にあることが分かる。
税収減のもう1つの要因は後述する法人税率と所得税率の引下げだ。アベノミクス効果の絶頂期である2018年度の企業売上と企業利益は共に過去最大だったが、法人税収は法人税率を引下げていたため12.3兆円と、法人税収は1989年度の65%でしかなかった。
消費税を導入し、税率を上げ続けたのに、かえって税収が減ったのは何故か? 消費税は経済成長率とトレードオフの関係にあるため、税率を上げる度に景気が悪くなるからだ。従って、所得税収や法人税収のように、景気や利益との相関関係が高い税収が減ることになるのだ。加えて、最も大きな財源であった所得税や法人税の税率を引下げたからだ。
消費増税では総税収が減るのに、社会保障の財源になるというのは、データとは裏腹な極めて非合理な考え方だと言っていいのではないか?
参照:日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新)
英語版:What has made Japan’s economy stagnant for more than 30 years?/ How to protect the pension and medical care systems (Arata Yaguchi)
この後、直近のグラフにあるように、2023年度の総税収(租税及び印紙収入)は69兆4,400億円と過去最大を更新するが、主な要因は企業収益がそうであるように、円安とインフレからもたらされている。
上記の続きは、「3、消費税は経済成長を止めた」と、名目GDPと個人消費の推移と消費税率の関係から解説している。
要約すれば、経済が縮小している時期にでも個人消費は安定していて、ここに課税することは安定財源となる。一方で、景気減速期にも一律課税してきたことで、家計や企業経営の重荷になってきたために、これが景気減速を長引かせた。
日本の名目GDPは消費税導入の翌年1990年度から減速を始め、税率を5%に引上げた1997年度からは減少する。そして、その年につけた経済規模533.4兆円はその後29年間のピークとなるのだ。更新するのは計算方法の見直しで30兆円を上乗せし、536.9兆円とした2016年度だ。
日本は30年間で1.66倍に成長した。一方、世界の名目GDPは87兆4453億ドルと、4.23倍となった。その結果、世界経済における日本のシェアは5.8%に落ちた。
第2次世界大戦後の瓦礫の中から、世界経済の7分の1にまで高成長した日本経済はミラクルとまで呼ばれた。その当時は、日本人の性質や企業文化が強みだとされていた。ところが、1989年頃を境に日本経済は急速に悪化し、世界の経済成長に取り残されていく。そうすると今度は世界経済のミステリーとなった。そして停滞の原因を、日本人の性質や企業文化にあるとされるようになったのだ。日本人への評価が、突然180度転換した。
このことは、世界の経済学者たちは日本経済の崩壊の原因をしっかりとした構造に求めるのではなく、性質や文化などという漠然としたものに頼ったことを示唆している。
日本の企業経営者たちも概ね同様で、1990年以降上手くいかなくなったのは自分たちのやり方がまずいからだというのが、支配的な論調となった。そして、その後の日本はグローバル化の掛け声のもと、主に米国に学べとなった。ところが、学べば学ぶほど、助言を受け入れれば受け入れるほど、かつては日本を部分的には世界一にまで押し上げた日本の良さを失っていった。そして、まだ変われない部分を見つけ出しては、だからダメなのだと自省するようになった。
日本銀行の黒田東彦総裁は就任当初、デフレ脱却のために日本人の「マインドに訴えかける」ことが最大の効果を伴うとした。景気は「気」であるというのと同様の精神論的なアプローチだ。そうであれば、1989年頃までの日本人は気力が充実していたが、突然、弱気になり、それが30年以上も続いていることになる。
日銀の黒田総裁から、「マインドに訴えかける」という言葉が聞かれなくなったように思う。とはいえ、黒田日銀は口先だけでなく、膨大な資金供給やマイナス金利政策、株式購入などといった前代未聞のパワープレーも総動員したのだが、それでも未だにデフレからの脱却は見られない。その理由を、私は財政政策による「最も効果的な」引締めに見ている。消費税の導入と税率の引上げが、日本経済の失速には何よりも効いたのだ。
要約すると、以上のようなことだ。
ジャパン・アズ・ナンバーワン(Japan as Number One: Lessons for America)が出版されたのは1979年だ。そして1980年代を通して、世界は「日本に学べ」だった。
また、「世界競争力ランキング」が最初に出版されたのは1989年で、当時の調査地域は24カ国・地域だった。その時の1位は日本で、1993年まで5年連続で1位を独占した。それが今は38位にまで低下した。
かつては実質ベスト1の経済を謳歌した日本が、GDP比での累積財政赤字や公的債務残高で実質ワースト1になりながらも、トップを保ってきたのが対外純資産ランキングだった。これがあるために、日本国債は安全で、質への逃避での円買いも起きるなどと言う人たちもいた。それが33年連続の世界1位から2024年3月末にドイツに抜かれ世界2位となった。
日本が対外純資産を膨らませることができてきた最も大きな要因は巨額の貿易黒字が続いていたからだ。貿易で得た外貨を海外投資に当てることができてきたのだ。それが2011年以降は基本的に赤字となったので、世界1位からの転落は時間の問題だった。
経済成長せず、貿易も赤字の国がランキングを下げていくのは自然な流れだ。そして、食料やエネルギーの自給率が低い国が、製造業を空洞化させたのだから、貿易収支が黒字に戻って定着する見込みも少ない。このことは、対外純資産ランキングでも下げ続ける可能性を示唆している。
先週発表された8月の工作機械受注総額確報値は前年比4%減の1107億円だった。マイナスは4カ月ぶり。国内向けは10%減の321億円で、24カ月連続のマイナス。海外向けは1%減の785億円だった。日本産業の空洞化は継続中だ。
日本経済に関する危機感を共有している石破氏には、1989年度以降の税制が日本経済に与えた悪影響を是非とも検証し直して頂きたいものだ。
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