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☆間接税と貧富格差の拡大
税金には直接税(direct tax)と間接税(indirect tax)とがある。
直接税とは、自分がどれだけ税金を納めているかが分かる税金で、所得税、法人税、住民税、固定資産税などがある。これは納税者が直接税金を支払うため、納税意識が高まりやすいと言える。また一般的には、所得が多い人ほど高い税率が適用されるため、高所得者の負担が大きい。
直接税は、負担能力に応じた税負担が可能(垂直的公平)だが、課税漏れや申告漏れが発生しやすく、景気変動の影響を受けやすいので、税収が安定しない可能性がある。
一方間接税とは、消費税、酒税、たばこ税、関税などで、自分がどれだけ税金を納めているかが分からない税金だ。直接支払うわけではないために、納税意識が低くなりがちだ。
間接税は、すべての消費者が平等に負担(水平的公平)するため、貧しい人への負担が相対的に大きくなる。一方で、景気変動の影響を受けにくく、税収が安定しやすいことがメリットだと言われている。
このように直接税と間接税にはそれぞれメリット、デメリットがあるので、各国政府はこれらを組み合わせることで、安定した税収を確保しようとしている。代表的な間接税である消費税(付加価値税)は1960年代後半から欧州各国で導入された。日本では1989年度の税制改革で導入された。一方、米国では各州で税制が違っており、連邦政府が課税する消費税というものはない。
また、先進諸国はそれなりに充実した社会保障制度を有しているが、OECDはその財源とも言える社会保険料も税金と見なしている。これは高所得者ほど多く負担するものの、概ね水平的公平で、景気変動の影響を受けにくく、税収が安定しやすいことから間接税に近いものと考えていていいだろう。
こうした直接税と間接税の特徴とメリット、デメリットとを鑑みると、政府にとっては間接税の方が扱いやすいことが見えてくる。自分がどれだけ税金を納めているかが分からないため納税意識が低いうえに、景気変動の影響を受けにくく、税収が安定しやすいからだ。また、直接税のように大口の納税者からの圧力がある訳ではない。とはいえ、それが必ずしも安定した税収に繋がるとは限らない。
直接税から間接税へ重点を移した税制の端的な失敗例が、日本の1989年度の税制改革だ。日本政府は同年度から消費税を導入し、所得税、法人税の税率を下げ始めた。その結果が、日本の税収は1990年度の60.1兆円がピークで、その後景気低迷と税率の引き下げにより所得税収、法人税収が急減したことで、一時は38.7兆円にまで減少した。そして再び60兆円を上回るのに2018年度まで待たねばならなくなったのだ。
個人消費が最大のエンジンだった経済への消費税の悪影響は顕著なものだった。日本経済は1990年度から減速し始め、消費税率を引き上げた1997年度からはマイナス成長になった。1997年から2019年まで、世界経済は2.8倍に成長したが、日本の経済成長はわずか15%だった。北朝鮮、ベネズエラ、イランといった重い制裁を受けている国々でも、ソマリア、リビア、アフガニスタンなどの紛争国でも、日本よりはるかに成長したのだ。
つまり、税制を直接税から間接税へ重点を移したことで、経済成長も税収も失ったのが、「日本の失われた30年」の真相だと見なせるのだ。
また、景気低迷と税収減により社会保障制度の収支が悪化したことで、サービスの低下と同時に社会保険料を上げ続けることになった。そして、こうした年金支給額の減少、医療費負担の増加、社会保険料(間接税)の引き上げなどが更に個人消費に打撃を与え、景気低迷に繋がるという悪循環に至った。少子化の進展にも繋がったと言ってもいいだろう。
ここで判明したのが、間接税のメリットであるはずの「景気変動の影響を受けにくく、税収が安定しやすいこと」が、一面的な真実でしかないということだった。確かに、景気低迷時でも消費税収は安定していたが、この負担が景気低迷を更に深化させることで所得税収と法人税収を減少させ、総税収を更に押し下げたのだ。
一方で、間接税のデメリットである「貧しい人への負担が相対的に大きいこと」と、景気低迷や間接税(消費税、社会保険料)の負担増により貧しい人々が増え続けたことが、貧富格差を更に拡大することに繋がった。
現在の世界各国で貧富格差が拡大している最大の要因は「間接税」偏重であると言ってもいいだろう。どんな富豪でも、その富の源泉は「社会」だ。その意味では、直接税による累進課税は、社会からの恩恵を最も受けたものが、その受けた恩恵に応じて納税するものだとも言えるのだ。
1980年代までの日本が強かったのは偶然でもなければ、奇跡でもない。経済と財政をしっかりとサポートする税制だったと見ている。
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