・銀行破綻、次はどこ? | 矢口新

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☆銀行破綻、次はどこ?

資産2130億ドル(2022年末時点)で米銀14位のファースト・リパブリック銀行が5月1日に経営破綻した。同日、米国連邦預金保険公社はJPモルガン・チェースが同行の全ての預金や実質的な資産を引き継ぐ契約を締結したと発表した。3月10日に経営破綻した米銀16位のシリコンバレー銀行(SVB)を上回り、米国での銀行破綻としては過去2番目の規模となった。

同行は不振が続くテクノロジー企業との取引が多く、預金保護の上限である1口座当たり25万ドルを超える口座割合が多いことなどから預金流出が続いていた。3月16日にはJPモルガン・チェースなど11行から合計300億ドルの保険対象外の預金預け入れ支援や、米連銀から約1090億ドル、米連邦住宅貸付銀行から100億ドル借入れなど、市場からの信用不安の解消に努めたが、3月末の預金残高が1045億ドルに減少したと4月25日に明らかにしたことで、株価は年初の2.6ドル台から1ドル以下に下落、今回の経営破綻に繋がった。


米国の銀行破綻は3月8日のシルバーゲート・キャピタル以降で4行目となるが、何故だかSVBから数えて3行目とする報道も多い。ファースト・リパブリック銀行破綻前には3行とされていた破綻銀行が、ファースト・リパブリック銀行の破綻でも過去2カ月間で3行目とされている。以下は4行とするブルームバーグからの記述。

「4行が発行した普通株と優先株、債券の失われた価値をブルームバーグが試算した。試算によれば、銀行を巡る混乱が本格的に始まる直前の今年2月28日以降に吹き飛んだ時価総額は469億ドル、優先株と債券は価値が約75億ドル減少した。破綻した4行の株式には2日時点で合わせて約7億2500万ドルの価値がまだあるが、銀行の破綻が完全に決着する際には何も残らないことが多い。

ファースト・リパブリック、シルバーゲート・キャピタル、シリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー・バンクの救済計画には、優先株や債券の保有者は含まれていない。」


JPモルガン・チェースによるファースト・リパブリック銀行吸収が決まったことで、2日にはハーバード大学教授のサマーズ元米財務長官が「銀行トラウマの大部分は片が付いたようだ」と発言、「銀行セクターで起きていることへの強い警戒はない」と述べた。

一方で、議会がこれまでのところ、連邦債務上限の引き上げあるいは適用停止に至っていないことについて、「政治セクターで起きていることへの警戒の方が強い」と発言。議会が行動しなければ「何か極めて深刻なことが起こる」まで、残された時間がわずかしかないことは明白だと述べた。

連邦債務上限問題については、イエレン財務長官がこのままでは6月1日にも米政府は債務不履行に至ると、繰り返し警告している。


米国の当局者たちは相次ぐ銀行の破綻について概ね危機的ではないとし、あくまでも個別の「経営責任」問題にしようとしている。しかし一方で、米当局そのものが責任の大半を負っているとの見方も多い。そのために(好調な雇用統計を受けて、金曜日こそ大反発したが)、地銀株への売り圧力は収まっていない。

私は米当局そのものが責任の大半を負っているという見方で、SVBの破綻後、4月17日付けのブログでは、以下の5つの大きな教訓を得たと指摘した。

1、コロナ後の「異常な」過剰流動性による預金急増、貸出難は世界で一般的だった。

2、急速な「金融の正常化」によって銀行の資産運用が逆ザヤとなったのも世界で一般的だった。

3、「金融の正常化」による不良ローン債権の増加や、証券投資の評価損が急拡大したのも一般的だった。

4、米国債やMBSといったトリプルAでの資産運用でも破綻に繋がった。

5、SNSに煽られる取り付け騒ぎは今後も予想される、といったことだ。

参照:SVB型「取り付け騒ぎ」への対応


この5点の解説を更に掘り下げて繰り返しておく。

1、コロナ後の「異常な」過剰流動性による預金急増、貸出難は世界で一般的だった。

コロナ禍に遭遇して、世界のほぼすべての政府はコロナとの「短期決戦」を選択した。疫病対策には「ウィズコロナ」のような長期的な対策こそ適しているという現在主流の見方は、当時は否定された。「短期決戦」中には世界的に通常の年よりも死亡者が多い超過死亡が急増したが、コロナによる死者数よりも、行動制限などによる心身の健康被害によるものの方が多いとされている。また、医療機関には過剰な負担を強いることにもなった。

「短期決戦」は基本的人権だともいえる日常生活や経済活動を否定することだったので、膨大な戦費を必要とした。各国共に過去最大級の補正予算を組み、超緩和的金融政策を採ることで、過大な資金が市場に溢れることになった。それは金融当局自身が「未曽有」などと呼んだ「異常な」もので、そのために過剰流動性による預金急増が一般的になった一方で、行動制限によって貸出先が限定されるようになった。

米銀では数行の破綻した銀行だけでなく、米銀一般に預金残高急増が見られ、同時に貸出難に見舞われた。これは数行だけに限った経営問題ではなく、政府、政策当局が招いた政策ミスだと言える。


2、急速な「金融の正常化」によって銀行の資産運用が逆ザヤとなったのも世界で一般的だった。

現状の世界の大半の金融政策は「金融の正常化」と呼ばれている。つまり、金融当局自身が「異常」と認めるほどのゼロ、あるいはマイナス金利政策や、膨大な資金供給が産んだものは急激な価格高騰やバブルだったからだ。

預金が増えると、銀行は増加量に応じてより多くの金利を支払う必要がある。しかし、貸出先は減っている。そこで、自らもバブルに乗ったシルバーゲート・キャピタルやシグネチャー・バンクのようなところも続出した。

一方で、SVBのように米国債やMBSなどで「手堅く」債券運用したところも多い。とはいえ、米国債やMBSの価格も高騰していたので、低利回りの債券を買い集める結果となった。

そこに急激な「金融の正常化」が行われたために、短期金利が長期債の利回りを上回る逆イールドカーブ、つまり、逆ザヤ状態が出現した。逆ザヤ状態は数行の銀行が陥った経営ミスではなく、政府、政策当局が作り上げたものだ。

日本は日銀が超緩和的「異次元」政策を継続しているために逆ザヤ状態にはなっていないが、これは日本経済の置かれた状態が「正常化」に耐えられないためで、必ずしも恵まれた環境にはないことは、上記のブログでも触れている。


3、「金融の正常化」による不良ローン債権の増加や、証券投資の評価損が急拡大したのも一般的だった。

低金利時代に超高値で買ったこれら運用物件は、急速な金融の正常化によって、いずれも不良債権化した。ゼロ、あるいはマイナス金利政策や、膨大な資金供給は異常なレベルだったが、「正常化」と呼ぶ急激な引き締めもまた、異常とも呼べるスピードだったのだ。

そうした正常化により、暗号資産関連やSPAC、ミーム関連株、その他のバブルが崩壊した。シルバーゲート・キャピタルやシグネチャー・バンクは暗号資産関連企業の崩壊で破綻した。

これを大勢が乗っているバスに例えるならば、乗客たちが異常なスピードに慣れ切ったところに、運転手がその危険性をようやく認識して、急ブレーキを踏み込んだことを意味する。バス内で踊っていた者たちが転倒するのは避けられないとしても、安全ベルトをして座っていながらでも転倒する者たちが出たことまで、すべて乗客の責任だとするのは、運転手である政府、政策当局の責任逃れだと言っていい。


4、米国債やMBSといったトリプルAでの資産運用でも破綻に繋がった。

現在、米銀が抱えている最も大きな火種は商業用不動産への融資の焦げ付きだ。

参照:バークシャー・ハサウェイのチャーリー・マンガー「米銀は商業用不動産の不良債権でいっぱい。」
Charlie Munger: US banks are ‘full of’ bad commercial property loans 


現在の多くの国々の経済問題の多くはコロナ対策に起因している。米国でも行動制限により、例えば、商業用不動産への需要は消滅した。その一方で、未曾有の資金が供給されたために、不動産デベロッパーたちは事業継続、生活維持のために商業用不動産の建設を続けた。貸出先が限定されていた銀行はそこへの融資を続けた。その結果、今、商業用不動産の在庫は大幅な余剰となっている。

現在、米国で4.5兆ドルの残高があるとされる商業用不動産への融資の約4割は銀行が行っている。商業用不動産市況の悪化は一部の銀行の危機につながりかねない。その一方で、銀行の危機は年内に4000億ドル近い債務の返済期限、さらに2024年には約5000億ドルの債務が期限を迎える不動産デベロッパーの借り換えを不安定にさせる。それでなくても、借り入れコストの大幅な上昇と不動産価値の下落に直面している。つまり、一部の銀行と不動産デベロッパーたちは共倒れの危機にある。

また、商業用不動産への融資は、銀行に次いで、ファニーメイやフレディマックといった住宅金融公社、保険会社、証券化商品の順に大きい。多くの年金が不動産証券化商品のETFを購入しており、ここにも火種があると言える。

SVBなどは、そうした信用リスクを避け、米国債やMBSといったトリプルAの「安全資産」での運用を行っていた。それでも破綻に繋がったのだ。


5、SNSに煽られる取り付け騒ぎは今後も予想される。

SVBは1日で預金の4割もの引出し要請に応えられずに破綻した。とはいえ、1日に4割もの引出し要請に耐えられる銀行は皆無だと断言していい。

企業や個人相手の貸出資産の急な引き上げは不可能だ。仮に強制的に行うことが出来るとすれば、国や地域の経済が破綻する。また、証券運用で当日に現金化できるものはない。このことは、SVBだけでなく、どの銀行でも破綻していた可能性を意味している。

過去の取り付け騒ぎの象徴的なイメージは、銀行の前に預金者たちが集まって引出し要請をするというものだ。長らく金融危機が続いているレバノンなどでは、厳しい引き出し制限を行うことで、多くの銀行が破綻を免れている。

一方、SVBの破綻はオンラインバンキング故に発生した。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、「少数のベンチャーキャピタルがツイッターでSVBの3万5000超の法人顧客を一斉に動かし、預金も一緒に動いてしまった」と指摘した。

2021年の時点で、米国の預金へのアクセスは、旧来の窓口とATMを合わせて3割強で、後の7割近くはデジタルバンキングなのだ。SVBは破綻前日の3月9日の時点で、サンフランシスコ連銀などに支援を要請したという。しかし、当局ですら急な要請には応えられなかったのだ。


そこで、前述4月17日付けのブログでは以下のような解決策を提案した。

***

必要なのは、市中銀行のハブとなり、中央銀行とも直結する「決済専門銀行」の設立だ。日本であれば、銀行間の資金のやり取りを仲立ちするブローカー(短資会社)の機能を大幅に拡充し、これまで以上に日本銀行との繋がりを強固にすることだ。

SNSの発展、オンラインバンキングへの流れを逆流させることができない以上、金融システムもそれに対応したものにする必要がある。また、厳罰の対象とすべきは、通常の経営を行って破綻した銀行の経営陣ではなく、「取り付け騒ぎの原因となったツイートを行った者たち」だ。次の破綻を防ぐには、厳罰の対象を間違えない必要がある。

私は少なくとも日銀や短資会社などが、「決済専門銀行」設立の方向を検討していると信じたい。SVBの破綻を個別行の問題だと考えているとすれば、次の危機は避けられないかと思う。

***


しかし、米当局はあくまで個別行の経営責任だとし、事の本質には(少なくとも表向きには)触れないままに、4行目が破綻した。


そんな中、アップルが米国で預金サービスを開始した。普通預金口座の利率が4.15%と高く、初日だけで4億ドル、最初の4日間でおよそ24万の口座が開設、9億9000万ドルもの預け入れがあったようだ。アップルの預金口座はゴールドマンサックスのバンクUSAとの提携により提供される。

アップルは2019年にゴールドマンサックスと組んで「アップルカード」というクレジットカードの提供を開始している。今回始めた預金サービスは、このアップルカードの保有者ならば、最速30秒ほどで口座開設できるという。普通預金の口座は実質的にゴールドマンサックスの支店に作られることになる。

米国の銀行口座の平均的な利率は0.5%以下だ。米国の市中銀行は米連銀の利上げにすばやく対応して、住宅ローンや自動車ローンといった運用金利は上げたものの、調達金利である預金利率はほとんど上げていない。一方、ネットバンクのなかには預金利率が3~4%台の銀行があり、アップルの利率が突出している訳ではない。

米国債3カ月Tビルの利回りは5月5日終了時点で5.20%もある。つまり、アップルが預金を世界で最も安全資産である米国のTビルで運用すれば、調達金利と運用金利の金利差では、1%以上の利ザヤを得ることができるのだ。

アップルの固定費が大きくなければ、預金サービス・ビジネスだけでの黒字化も可能だと言える。ちなみに、固定費が大きいと言われている邦銀の2022年末時点の運用金利である貸出約定平均金利は1%もない。証券投資から得られる長期債の利回りはもっと低い。これは預金利率がゼロでも、アップルよりも利ザヤが小さいことを意味している。異次元緩和は、銀行ビジネスの否定なのだ。


もっとも、SNSに煽られる取り付け騒ぎのリスクは、アップルですら避けられない。Tビル運用でも当日決済には応じられないからだ。顧客に利便性を提供すればするほど、悪意のある逆手に取られた時には大きな痛手を被ることになる。空売りや吸収合併、その他の事情で「取り付け騒ぎ」で大きな利益を得られるところがいる限り、そうしたリスクは避けられないのだ。

次はどこか? どこであってもおかしくはない。このまま個別行の不祥事だとして、抜本的な対策を取らない限り、大手行であっても、SNSで標的にされ、多くの預金者が動いてしまえば破綻する可能性はゼロではないのだ。

 

 

 

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