・政府は日本人の何を「守る」? | 矢口新

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☆政府は日本人の何を「守る」?

私は何となく人類が地球上で最も優れた生物だと思ってきた。何となく今の人は昔のことから学べるために成長していると思っていた。何となく日本がもう戦争することはないと思ってきた。

遅まきながらこの頃になって、この20数年の世界の動きを見てきて、そのどれもが幻想であったことに気付かされている。

人類は他の生物には見られないその限りない欲望や嫉妬心などにもたらされる甚大なパワーよって、マクロの食物連鎖(寄生)の頂点に立っているに過ぎないのだ。マクロ寄生の頂点というのはウィリアム・マクニールによる定義で、ミクロ寄生の頂点にはウイルスなどの疫病がいる。そして、コロナ(Covid-19)だけが相手の頂上決戦でも大苦戦しているのだ。

昔のことから学べるために成長できるというのも幻想だ。確かに昔よりは便利になったと言えるかも知れない。その便利さとは、個人が何から何まで手足を使ってやっていたことを、他の個人や道具、機械に分業させるところから得られるもので、その成長は同時に退化を伴っている。そして、それは知覚を含む肉体面や、知性を含む精神面での成長を意味するものではない。

そして今、日本政府は国防という名の戦争準備を始めている。とはいえ、世界の歴史を見れば分かるが、昔から戦争とは自国の体制や思想といったものを「守る」という名目でなされたもので、自らが侵略すると始めた戦争などない。

戦争に参加することはそれまでの日常生活を失うことなので、大多数の人にとっては侵略のメリットと釣り合わないからだ。人は「家族を守る」、「戦友を守る」など、自分が大切に思うものを「守る」ために戦うのだ。権力者たちはそうしたやむにやまれぬ思いを巧みに利用する。

米国などは世界の体制が異なる各地で、自国の体制や思想といったものを「守る」とした戦争を行ってきたが、ロシアがウクライナに侵攻したことで、戦争はいわゆる先進国にとっても身近なものとなった。

ロシアはロシア人が多数派であるウクライナ東部のロシア人を「守る」としている。一方のウクライナはロシアから自国を「守る」としてNATO加盟を申請し、かえってロシアを引き込んで国土を戦場とした。また、中国は自国の領土を「守る」ためには武力行使も辞さないと明言し、その「自国の領土」には台湾や、日本の尖閣諸島も含まれていると繰り返している。


そうした世界の2022年の軍事費は前年比2.6%増の1兆9786億ドルだった。米国は0.9%増の7666億ドルで、世界の軍事費の39%を占めた。増加幅が小さいのは米政府が債務上限に到達していることが大きいと思われる。2位の中国は13.3%増の2424億ドルで、3位にはロシアが約4割増の879億ドルと、順位を前年の5位から上げてきた。

日本の2022年度の国防予算は5兆3687億円だった。政府は2023年度からの5年間の総額を43兆円程度とすることを閣議決定した。過去最大の増額で、現行5年間の計画から1.6倍に積み増すことになる。これは世界的にも思い切った増額で、増額を求めてきたバイデン政権に対する満額回答となった。

その財源の選択肢は増税、歳出削減、国債(借金)増額の3つだ。どれも国民の生活を圧迫することになる。それでも、日本人や日本の領土が「守れる」のならば、仕方がないとするのが政府の考えだ。


一方で、国民の生活はエネルギーや食料・飼料・肥料価格の高騰で脅かされてきている。主な原因は海外発のものだが、エネルギーや飼料のほとんど、食料の大半を海外に依存している日本にとっては国の安全保障にも直結する一大事なのだ。

それにも関わらず、食料関連やエネルギー関連ビジネスの苦境が連日のように報道されている。

畜産業、養鶏、漁業、農園経営など1次産業分野の企業倒産は2022年9月まででも58件発生、前年同期の4割増となった。目立ったものでは、畜産業界で国内有数の規模を誇った神明畜産(東京都東久留米市)、鶏卵業界のリーディングカンパニーとして知られたイセ食品グループ(東京・千代田ほか)、養豚業で有数の規模を誇った長島ファーム(鹿児島県長島町)などの大手も経営破綻した。

ニュースでは、エネルギーや飼料価格の高騰で子牛を育てることができないために、売りたくても買い手がいない、生乳も捨てていると報道された。その牛乳も値上がりしている。また、鳥インフルエンザの影響もあり、卵を提供できないレストラン・チェーンが出てきたとも報道された。

このことは、今後の日本は食料でますます海外依存を深める可能性を示唆している。

一方で、電力会社2022年4-12月期は合わせて1兆3021億円の赤字だった。新電力の撤退や倒産も相次いでいるとされる。


こうした食料安定供給の22年度予算は1兆2701億円だった。エネルギー対策予算は8756億円だ。しかし、防衛費増額のために年間6000億円の歳出削減を行うとしているので、これらの予算が削られないまでも、増額する余裕はまったくないと言える。
参照01:2022年度予算に23年度予算案を書き込み(出所:財務省)
 

とはいえ、ここでの最大の問題は1000兆円を超える国債の利払い費が、金利上昇で急増する時期に入って来たことだ。
参照02:国債残高、金利、利払い費の推移に「日銀が利上げを出来ない理由」を書き込み。(出所:財務省、青枠内の書き込みも)
 


防衛費増額の財源の選択肢は増税、歳出削減、国債(借金)増額の3つだ。

このうち歳出削減では、食料安定供給やエネルギー対策など、国民の生活に必要不可欠な歳出を削減されないことを願うばかりだ。ここを削ると生活が「守れない」。有事の際には猶更のこと、凍死や熱中症、飢餓などの恐れさえあると言える。

国債増額は、現状では歳出の22.6%を占めている国債費が、利払い費急増を伴いながら、ますます財政を圧迫していくことを意味している。このことは、他の項目の歳出削減が不可避になることも意味している。これは日本の衰退しか意味しない。

こうして見ると、何らかの形での税収増が必要であることが分かる。しかし、それは消費税のような生きるため、事業経営のためのコストになるようなものであっては逆効果となる。それは1989年度の税制改革以降、1990年度から税収減となり、消費税率を5%に引き上げた1997年度からは経済がマイナス成長となったことでも分かる。
参照:日本が幸せになれるシステム問題集・日本経済の病巣を明らかにするための57問(著者:矢口 新、Kindle Edition)


日経新聞は「ドル換算した名目GDPで世界4位のドイツとの差が急速に縮まっている。世界最大の人口大国になったもようのインドも猛追しており、世界経済で日本の存在感はしぼみつつある」と述べているが、この世界経済における存在感の薄さ、必要物資の海外依存の深さは、国家安全保障上の大問題でもあるのだ。

経済抜きの国防など絵空事だ。日本の経済が順調に成長し、個人所得も企業収益も税収も増えてきた時代があったのだ。私は、その頃の税制に戻すという選択肢を真剣に考える時期が来ていると繰り返している。今なら遅くないが、有事になれば、手遅れになる可能性がある。

 

 

 

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・著書案内:日本が幸せになれるシステム: グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方(著者:矢口 新、ペーパーバック版)

 

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