・追い詰められた日銀 | 矢口新

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☆追い詰められた日銀

2022年12月20日の会合で、日銀は長期金利の目安とされる指標10年国債利回りの上限を+0.50%に引き上げた。黒田総裁は「利上げではない」とし、「市場機能を改善することで金融緩和効果をより円滑に波及させる趣旨だ」と説明した。

それまでは政策金利とされる補完当座預金制度適用利率を-0.1%に、指標10年国債利回りの上限を+0.25%とするイールドカーブ・コントロールを行い、連日の指値オペを通じて長期金利+0.25%上限を維持してきた。今後も短期金利の-0.1%は継続する。

長期金利の上限を維持してきたとはいえ、12月1日の新発10年国債(368回債:表面利率0.2%)の入札では、発行当日中に日銀が+0.25%の指し値オペで、発行額2.8兆円の半分以上の1.5兆円を購入する必要があった。これは、政府の借金を事実上日銀が貸し付けていることを意味し、法律違反であるはずの財政ファイナンスだと言っていい。

それにも関わらず、財務省の資料によれば、会合の前日12月19日の指標10年国債利回りの終値水準は+0.282%と、既に上限の+0.25%を破られていた。ちなみに同日の8年国債利回りは+0.288%、9年国債利回りは+0.294%と、いずれも10年国債利回りを上回っていた。そして、20日の政策変更で、8年国債から順に、それぞれ+0.418%、+0.42%、+0.432%と利回りが急騰した。

つまり、日銀の主体的な「利上げではない」のだが、市場の売り圧力に押されて、指標10年国債利回りのコントロール水準を+0.50%に引き上げるしかなかったのだと言える。そして、今後は2年、5年、20年の新発国債を対象に追加して、「指し値オペ」を実施すると発表した。その結果、日銀の12月の国債購入額は17兆円超と、月間の過去最大を更新した。


どうしてそれほどの売り圧力があるのか? 投機的な動きだとの見方もあるが、それだけではない。それは債券というものの性質による。

債券とは、確定利付き商品と呼ばれる金融商品だ。つまり、一度購入した債券は一定の決まった利子が半年ごとに支払われ、償還日に元本が100%で返ってくる。

例えば、上記12月1日の新発10年国債(368回債:表面利率0.2%)を100万円で購入すると、半年ごとに797円(利子-源泉徴収税20.315%)を受け取ることができ、10年後に元本と最後の半年分の利子、100万0797円が返ってくる。金融機関や機関投資家の場合は源泉徴収税が免除されているので、それぞれ利子1000円、償還時100万1000円となる。

この時、1年後の2000円が現在と同じ購買力を持つには、インフレ率が0%である必要がある。そうすれば、100万円貸し付けた見返りとして、2000円の儲けが出たことになる。

ところが、11月の消費者物価指数は前年比+3.8%で、91年1月以来の上昇率だった。食品価格を除くコア指数は+3.7%と、1981年12月の+4.0%以来の伸び率となった。食品とエネルギー価格を除くコアコア指数は+2.8%と、92年4月以来の水準となった。食料全体は+6.9%、エネルギー関連は+13.3%だった。

また、12月の東京消費者物価指数は前年比+4.0%、コア指数も+4.0%、コアコア指数は+2.7%だった。

コア指数やコアコア指数は、政策担当者側の都合により変動が大きいとして食品やエネルギー価格を除くものだ。消費者は食品やエネルギー価格も払い続けるので、実感としては総合指数を見るのが適当だ。

このことは、今の100万円が1年後に103万8000円になっていなければ、日本政府に100万円貸し付けたことで3万6000円以上(インフレ率-利子)の損が出ることを意味している。

日銀が言い続けてきたように、インフレは一時的なものだとしても、来年にはインフレ率が+0.2%以下にでもなっていなければ損が出ることになる。個人投資家ならば、+0.2%になっていても源泉徴収税分の203円の損が出る。

つまり、現状のインフレ率で、現状の利回り水準の国債を売ることは現実的な判断で、間もなくインフレ率がほぼゼロにまで下げると見ることの方が極めて投機的なのだ。


「利上げではない」金融政策の変更を受けて、2023年1月6日の新発10年国債(369回債 )の入札では、表面利率が0.5%に引き上げられ、流通利回りも+0.5%に上昇した。

これで、個人投資家が100万円で購入すると、半年ごとに1992円(利子-源泉徴収税)を受け取ることができ、10年後に元本と最後の半年分の利子、100万1992円が返ってくるようになった。金融機関や機関投資家の場合は源泉徴収税が免除されているので、それぞれ利子2500円、償還時100万2500円となる。

+0.2%から見れば+0.5%は大きな進歩だが、それでも現状では大損するので、売り圧力は止まらない。その結果、日銀は1月12日に+0.5%の「指し値オペ」で指標10年国債を2兆5084億円、他銘柄との合計では4兆6144億円を購入、1回の買い入れ規模で過去最大となった。13日には5兆0083億円の買い入れを行い、連日で過去最大を更新した。それでも、13日の指標10年国債の利回りは1時+0.545%と、上限利回りを破られている。8年国債や9年国債の利回りはもっと高い。

つまり、日銀の金融政策は既に崩壊している。それも当然で、誰も大損してまで日本政府に貸し付けたくないのだ。このことは、政府に超低利で貸し付けている日銀は大きな損失を出していることを意味している。


日本政府の国債発行残高(短期証券を除く時価ベース)は22年9月末時点で1065兆6139億円だった。このうち日銀の保有額は535兆6187億円で、保有比率50.3%となっていた。つまり、日本政府の借金の大半は日銀が貸し付けている。その全体の保有コストは利回りで+0.25%近辺だと言われていたので、現状+0.5%での購入はナンピン買いに相当する。

ナンピン買いとはコストの平準化で、高く買ってしまって値下がりしたものの評価損を、安く買ったものと合算して買いコストを引き下げるものだ。これまでのコストが+0.25%の時、+0.5%で買い続ければ全体のコストが+0.26%、+0.27%と下がっていく。

この時、市場金利が+0.5%以下に下がれば、全体の評価損が減ることになるが、上がれば、+0.5%で買ったものも評価損となるので、全体の評価損は破滅的に拡大する。大きな金融機関が破綻する時は、こうしたナンピン買い(不良資産の買い増し)によるものが多い。

2022年3月の年度末の日銀のバランスシート(民間企業仮定貸借対照表)では、国債保有残高は526兆3188億円で、それに見合う負債が当座預金の563兆1785億円だった。基礎残高の付利が+0.1%、マクロ加算残高が0%、政策金利残高が-0.1%なので、国債で+0.25%の利回りがあれば利益が出る。ちなみに、日銀の引当金と準備金は合わせて約11兆円ある。

この時、国債利回りが+0.5%になれば利益が拡大するように思う人がいるかも知れないが、それは最近買った10数兆円分だけで、残る550兆円ほどでは値下がりによる評価損が拡大する。

金利上昇が日銀の財務状況を悪化させるのには2つのケースがある。

1つは資金コストに相当する当座預金の金利上昇で、こちらは1%上昇する毎に5.6兆円以上のコスト増が発生する。

もう1つは保有資産である国債利回りの上昇で、購入時の利回りと、決算時毎の利回り上昇の差額が損失となる。

こちらは、12月2日の参議院予算委員会での「全期間で同じレートだけ金利が上昇したら日銀保有国債にいくらの評価損が発生するか?」との質問に、雨宮正佳日銀副総裁は、「1%の金利の上昇で28.6兆円、2%で52.7兆円、5%の上昇で108.1兆円、11%上昇で178.8兆円の評価損になる」と答えたようだ。


日本政府の税収は2018年度に60.4兆円で更新するまで、1990年度の60.1兆円がピークだった。その間、1991年度から2017年度までの平均税収は49.5兆円だ。その間にも歳出の方は増え続けたので、国の借金である国債残高は増え続けた。ちなみに、国債発行の最大は2020年度の108.6兆円で、その年の歳出は147.6兆円、税収は60.8兆円だった。

ところが、そうした国債残高の急増にも関わらず、利払い費は11兆円を超えたことがなく、1998年度からはむしろ減ってきた。これは日銀の政策金利が1997年3月以降、1度も0.5%を超えたことがないのが大きく貢献した。

それでも、2006年度頃からは利払い費は微増に転ずるが、2016年度からは再び減少し始めた。これは2016年1月に導入したマイナス金利政策が大きい。

とはいえ、2022年度からはまだ利上げを織り込む前から、利払い費が増加予想に転じている。今年度の利払い費は8.2兆円を見込んでいるが、事実上の利上げを受けて、今後は利払い費が急増する可能性が高い。1990年度の国債残高は現在の6分の1もなかったが、利払い費は10.8兆円もあったのだ。

参照図01:日本国債の残高、金利、利払い費の推移(出所:財務省の資料に注記)
 
注1:青い四角内の利払い費に関する注記は財務省によるもの。
注2:消費税率を10%に引き上げた2019年10-12月期以降、GDPギャップは12四半期連続のマイナス(需要不足を示す)。
注3:ゾンビ企業とは、利益で借入金の金利支払いができない企業を言う。金利が上がれば、破綻するゾンビ企業が増えるだけでなく、新たなゾンビ企業が増加することになる。
注4:日本はエネルギー源や肥料のほとんど、食料の大半を輸入に頼っている。
注5:日銀の収支、財務省との関係については、このコラムで解説している。

1989年度の税制改革以降、悪化する一方の日本財政を支えてきたのは日銀だ。また、経済面でも1997年度に542.5兆円とピークをつけた名目GDPを、2016度に544.8兆円と更新できたのは、計算方法で30兆円を上乗せしたためだけではない。97年4月には50.4兆円だったマネタリーベースを444.7兆円と急増させたことも大きく貢献した。

ちなみに、2022年末のマネタリーベースは623兆円と、3月末の名目GDP547.4兆円を大きく超えている。このことは日銀の膨大な資金供給がなければ、日本経済は目も当てられないほど悲惨だった可能性を示唆している。


1989年度の税制改革以降、破滅的な日本財政を支えてきたのは日銀だ。アベノミクスによる異次元緩和で、大量のETFを購入し、株価を支えてきたのも日銀だ。今後はその処理も大きな課題となる。しかし、経済も成長せず、税収も増えなかった。そして、今度は日銀が追い詰められており、自身の財務状況の悪化、政府の急増する利払い費に打つ手がない状態となっている。

経済政策は財政政策と金融政策をその両輪とする。利払い費の急増を目前とした財政と、身動きのできなくなった日銀とで、日本の経済政策は崩壊の瀬戸際にあると言っていい。

私は1988年度以前の税制に戻すことでしか、日本を救う方法はないのではないかと疑っている。

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